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「花崎さん、その言葉信じていいんですか?」
「え?」
ゆっくりと目を開け、こちらを見ずに、緑川がつぶやいた。
「私は…人と話すのが苦手です。一人が好きな人間です。他人にあまり共感もできないし、返し方もわからない。それでも…あなたは私を……」
トン。
色々言っている途中にお返しとばかりに私も肩に寄りかかって話を遮った。気配で彼がこちらを見るのが分かった。
「大丈夫ですよ。置いていきません。ずっと隣にいますから」
結局言いたいことはよくわからなかったけど、話を聞いて私なりに出した答えだ。私には彼の気持ちがわからないし、彼にも私の気持ちはわからない。
ならばせめて一緒にいてほしい。話さなくてもいいから、変われなくたっていいから、せめて隣にいてほしい。それだけだ。
私の言葉に緑川は何か言うでもなく、黙って正面を向いた。その顔は無表情で何を考えているかはよくわからなかった。
「…えっとすみません」
ここで冷静になった私は慌てて姿勢を戻す。ちょっと恥ずかしい…。
「……こ」
そのまま少し沈黙の後に緑川が口を開いた。『こ』?
「こ?」
「…これからもよろしくお願いします」
薄く笑って緑川がそう言った。
「…はい。よろしくお願いします」
「…………」
「…………」
…え、それだけ?続きは?
私が戸惑っているとふいに緑川が席を立った。どうやら奥に行くらしい。
その後ろ姿を見ながら私は首を傾げた。さっきの話は彼に響いたのだろうか?リアクションがなくていまいちよくわからない…。
「ちょいちょいちょい、香織~~」
そう思っていると玲奈がニヤニヤしながらこっちに近づいてきた。
「さっきいい雰囲気だったじゃ~ん♪何話してたの?」
「べ、別になんでもないから!」
「まったまた~♪肩トンってしちゃってさ~♪香織も結構積極的じゃん♪」
「ちょ、だから違うってのに!」
「え、何々?花崎さん、やっぱ緑川さんの事好きなの?」
「あ、やはりそうだったんですか。二人お似合いだと思います」
玲奈と話していると相馬さんや松風君が話しかけてきた。
「~~!もう!だから違うってのに!!」
真っ赤になって否定する私を周りの皆が生暖かい目で見ていた。
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