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第10章 マツカゼソウ(1)
キーンコーンカーンコーン。
チャイムの音で一気に教室が騒がしくなった。
「今日はここまでです。来週レポートを提出してください」
その喧噪に混じって前の方で先生がマイク片手に話していた。
やっと終わったか。私は伸びをして体の凝りをほぐす。あまり真面目には聞いていないが、とりあえず板書はとった。これでレポートはなんとか書けるだろう。
「香織~、お昼行こ」
「うん」
私の隣に座っていた片桐玲奈が声をかけてきた。派手な性格の玲奈は今日もおしゃれが嫌味じゃないくらいに似合っている。耳元のイヤリングがまぶしい。髪はグラデーションに染めており、毛先の方が茶色になっている。
玲奈の隣には増岡美玖もいる。私と同じように普通で目立つところはなく、入学したころ、席が近くて話して以来、変な仲間意識ができてしまった。
二人とも同じ学部の同期で一番の仲良しだ。
「あーさっきの授業めんどい。いきなりレポート出せとか…。必修だから落とすわけにもいかないしさ」
「まぁ先輩から聞いてわかってたけどね」
「二人とも大丈夫?レポート書けそうだった?」
「うん。板書はとったし大丈夫だよ」
「え~香織は?」
「私も板書はとれたし多分大丈夫」
「え~あの先生書くの早くない?」
「玲奈が遅いだけだって」
そんな会話を交わしながら私たちは食堂に向かう。
「そういえばさ、あのアイドルヤバくなかった?覚せい剤使ったって」
「あ、そうそう。別にそこまで知ってたわけじゃないけど曲は有名だったしさ。ショックー」
「あー確かに。ニュースすごかったよね」
「あ、玲奈」
同学部の男子の一群とすれ違ったが、ふいにそのうちの一人が玲奈に声をかけた。
「ごめん。今日サークルいけないって先輩に言っといて」
「LI○Eでいいなよ、そんなの」
「頼むって。ちょっとあの先輩怖いんだよ…お前なら甘いから大丈夫だろ」
「ちぇっ。じゃ明日学食のパンおごってよ」
「サンキュッ!助かる。じゃっ!」
そう言ってその男子は群れに合流して去って行った。
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