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第10章 マツカゼソウ(2)
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「なるほど。それで私を呼び出した、と…」
食堂での話し合いから三十分後。詳しい事情を聞いた緑川は深くうなずいた。場所はカフェFleur…ではなく、美玖の家。ワンルームのマンションで築年数も新しく綺麗な家だ(私とは大違いだ)。
食堂での私の問いかけに二人は一時間半後くらいに用事があると言った。そこで私は緑川に電話をかけて美玖の家に来てくれないか頼んだ。一度美玖の家に行って花を取ってきてカフェFleurに行っていたのでは時間的にロスになる。解決にどれくらいの時間がかかるかわからないので緑川を美玖の家に呼んだ、というわけだ。幸い、今日は定休日で彼自身も特に用事があったわけでもないのですぐに来てくれた。
「すみません。休日に呼び出しちゃって…」
「いえいえ、大丈夫ですよ。暇でしたし。とはいえ期待に応えられるかどうか…」
「大丈夫でしょ。店長、花の知識と推理はすごいですから」
「なんか若干引っかかりますね、その言葉…」
私たちのやり取りに玲奈と美玖が呆気に取られている。
「あ、紹介します。と言っても一度店に来たことありますけど。この子が片桐玲奈でこっちが増岡美玖。花をもらってた子です」
「Fleurというカフェを経営しています緑川樹と言います。どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい……」
「どうも……」
緑川がそう自己紹介すると二人は呆然としたままそう返事した。
「?私何か悪いことしました?」
二人のリアクションに妙なものを感じたのか、緑川が私に向かって言った。
「大丈夫ですよ。それより美玖、届いてたっていう花は?」
「あ、うん。今取ってくる」
私が促すと美玖はリビングから出て行った。
「あ、じゃああたしも。香織も一緒にいこ?」
「え?いやでも…」
「いいから」
首を傾げいてる緑川を置いて私たちもリビングを出ると玲奈は美玖と合流した。
「香織、あの人って香織がバイトしてるっていうカフェの店長の人じゃん!」
玲奈はひそひそ声で私にそう聞いてきた。
「え?うん。そうだよ。二人とも前に来たことあったじゃん」
そう。この二人は私のtwitte○を見て前にFleurに来てくれたことがあるのだ。特に玲奈はイケメン店主だ、とはしゃいでいた。
「なんであの人呼んだの!?」
「いや、あの人、花に詳しいし、推理力もすごいから、もしかしたらわかるかもなぁって」
「…付き合ってる?よね。あの感じ」
「え!?いやいや付き合ってないよ!」
玲奈の言葉を私は慌てて否定する。
「ほんとに?すごい付き合ってる感が半端ないんだけど…」
「ほんとほんと。香織にも彼氏が!って思ったもん」
「だから違うって…」
玲奈の言葉に美玖まで乗っかってきた。そんなに付き合っているように見えるだろうか?…ちょっと嬉しい。
「でもただのカフェの店長とバイトって関係でもないでしょ?電話で呼び出しちゃうぐらいなんだから」
玲奈がニヤニヤしながら聞いてきた。
「うーん…そういうわけでもないけど…まぁ色々あったんだよ。でも付き合ってるわけじゃないから」
この夏の事故の事はまだこの二人には話していない。やはり重い話は友達には話しにくいのだ。休みであまり会わなかったし。
「と、とにかく、花もっていこ」
私はその追及をごまかすしかなかった。
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