33人が本棚に入れています
本棚に追加
**************
「これがポストにあった花ですか…」
緑川がテーブルの上に並べられた花を見てあごに手を当てた。その横顔は見とれるほど綺麗だった。さっきまでの知らない場所に置いてけぼりにされて手持無沙汰にしていた姿とは大違いだ。
「これ順番通りですか?」
「あ、はい、そうです。左から順になってます」
「一番最初に届いたのは?」
「えっと先々週の水曜日です。そこから一日空けてまた花が来て…」
「ふむ。そういえば一日空くことはあったとか言ってましたが具体的にいつのことですか?」
「えっと…一本目が届いた後と、確か先週の月曜日か火曜日くらいに間が空いて…で、土曜日にもなかったし…」
「ではすみませんが、その花の届いた日と曜日を付箋か何かに書いて花のそばにおいてくれませんか?」
緑川に言われたので美玖はその作業を始めた。内容的に私たちは手伝えないので彼に聞いてみた。
「なんかわかりました?」
「いえ、まだ何も」
「この作業はどういう意味があるんですか?」
今度は玲奈が聞いた。
「届いた日付や曜日に規則性があるかもしれません。例えばその曜日は何か届ける側の都合が悪い日なのか、とかね」
「なるほど」
「できました」
玲奈が相槌を打つと美玖がそう言った。どれどれ、と四人でのぞき込む。私には特に規則性があるようには見えなかった。
「んー何とも言えませんねぇ。そういえば写真とかないんですか?枯れてない状態のやつ」
「あ、はい。一応毎日撮ってはいました。インスタにもあげてます」
ほら、と言って美玖がスマホを見せてきた。インスタの『#毎日一輪の花』というタグがついていてアルバムになっていた。私はインスタをやっていないので知らなかった。
「それよりこの花が全部何かわかるんですか?枯れてしまってますけど」
美玖がスマホを見ている彼にそう聞いた。なんか普段の私を見ているようで面白い。
「いえ、わかりませんね」
その後のスマホから顔を上げた緑川の答えも予想通りのものだった。
……違った。全然予想通りじゃなかった。
「えっ!!わからないんですか!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。
「あ、はい。一部はわかりません。何でそんなびっくりしてるんですか…」
驚いたように緑川が答えた。
「いやだって…いつも店長一瞬で答えるのに…わからないなんてそんな……」
信じられない気持ちでいっぱいだった。必要以上に植物の知識があり、葉だけでも見分けることができると言っていた彼がわからないなんてそんな……。
「植物の知識では誰にも負けないと思ってたのに!」
「私だってわからないものぐらいあるし、私より知ってる人なんていくらでもいます。全知全能じゃないんですから」
対して緑川はすましてそう言った。私はなぜか悔しい気持ちになった。だっていつも颯爽となんて事のないように答えてくれる姿がカッコよくて…。今日だって本当は私の友達に自慢したかったのだ。私が好きな人はこんなにすごいんだよって。それなのに…。
「店長がわからないんじゃどうしようもないですね」
「あの花崎さん、花崎さん」
落ち込んでいる私に緑川が遠慮がちに声をかけてきた。
「別に私がわからないと言ってるだけでこの花が何かを調べることはできますよ?」
「へ?」
「むしろ楽しみですね。久しぶりに調べる楽しみが出てきました」
そう言って彼はにっこり笑うのだった。…笑顔かわいい。
最初のコメントを投稿しよう!