第10章 マツカゼソウ(3)

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「クローバーですよね?これ」  玲奈の言葉に私たちもうなずく。言わずと知れた三つ葉のクローバーだ。すると緑川はにやりと笑った。 「いいえ、違います。一般にクローバーと呼ばれているものはシロツメクサのことです。ムラサキツメクサも入れてもいいですね。ヨーロッパ原産の帰化植物で白いつめがたくさんあるような花を咲かせます。まぁ由来は別ですけどね。昔荷物を積むときに緩衝材にしたことがあったから……」 「あ、あの、それでこの花は結局何なんですか?」  玲奈が緑川の話を遮ってそう聞いた。緑川は一瞬キョトンとしたがすぐに気を取り直した。 「あぁ、すみません、つい…。えーとこの花はカタバミと言います。片方の葉が食われているように見えるから『片食み(カタバミ)』と呼ばれているようです。最もこれは道端に生えているようなものではなく、園芸品種のようですが。おそらくオキザリスの名前で売られているものでしょう」  なるほど、と言いながら私は付箋にメモを追加していく。さっきのアヤメからずっとやっている。緑川はメモがなくても大丈夫だろうが、私たちはメモっておかないとわからなくなるのだ。 「カタバミはいわゆる雑草と呼ばれるものでそこら中に生えています。この葉にはシュウ酸が含まれており、この葉で十円玉を磨くとピカピカになることから『ゼニミガキ』という別名も…」 「あの、店長」  普段はしないのだが、私はここで話を遮る。 「何です?」 「とりあえずちゃちゃっと全部教えてくれませんか?ちょっと時間がないかもしれないので…」 「…そうですか。わかりました」  ちょっと口をとがらせて緑川が渋々答えた。…申し訳ないけどかわいい。
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