ラウドネス

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ラウドネス

 私は今、コンサートの幕が開けるのを待っている。  槙島誠司。事故による中途失聴から奇跡の復活を果たしたチェリスト。  およそ六百席の小ホールは、観客で次第に埋まりつつある。私は緊張で、拳をスカートの上で握り締める。シルクのような光沢を持つ、だけど合繊のスカートで、この日のために買ったものだった。  槙島さんと私の関わりは、ちょうど一年前になる。  彼が事故によって聴力を失い、生活補助のための家政婦サービスを利用したのがそのきっかけだった。
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