ねえ、お父さん

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 そうして母をみおくった私は家を出た。  父には文句言われたけど、逃げるように飛び出した。  ようやく訪れるはじめての平穏。  アパートに引っ越した初日。家具もない、がらんとした部屋で、ただただ泣き続けた。  やっと。やっと解放されるんだ。  これからは自由になるんだ。  ……だけど、そんなに甘くなかった。  今まで母に甘えていた父が、一人で何かできるわけがなかった。  ある日、病院から連絡があった。 「救急車で運ばれました」  聞けば、自ら救急車を呼んだらしい。  多少の栄養失調だけど問題はないから、引き取りに来て欲しい、と。  拒否も出来ず仕方なしに引き取りに行けば、変わらずの赤ら顔。  自宅にいけば掃除もされず、ゴミも出していない有り様。それでも知った事か。子供じゃないんだから。  さっさと帰りたかったのに、連れ帰ったところを近所の人に見られてしまい、この惨状について散々言われた。 「お父さん、かわいそうに」「ちゃんと面倒みてあげないと」  うるさいっ。だったらあんた達が面倒みてよ。  昔、私が冬の夜に家から追い出されたの知ってても、知らんぷりしてたくせに。
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