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 怜史は眼鏡の奥の目を丸くする。しばらく俯き、また顔を上げて俺を見た。そして、ゆっくりと口を開く。 「俺…。」 「驚いた?ハッピーエイプリルフール!!」 絶対に断られるとわかっている俺は、怜史が何か言う前にもう一つ用意しておいたセリフを言った。そして、これまた練習しておいた笑顔を向けた。 「エイプリルフール…?あ、嘘か。」 あー…と言いながら怜史は両手で顔を覆った。騙されて悔しいようだ。「そうだよ、う・そ!」俺は作戦が上手くいった手応えを感じて、少し安心していつも通りの調子で言った。 俺の用意してきたセリフのうち、嘘なのは二つ目だ。一つ目の告白は、真実。これは、俺の欲求を満たすためのみみっちい作戦。 思いは伝えたい、関係は壊したくない。この矛盾した二つの願いを叶えるのに、エイプリルフールという日はぴったりだった。 怜史が俺のことをそんな風に見ていないことは、わかってる。数ヶ月前に別れてはいるが、こいつには彼女がいた。 望みがないのなら、告白しなければ良い。それは、そうだ。そうなんだけど…。 理屈ではわかっていても、どうしても言いたかった。嘘だと思われて構わない。一回だけ、自分の思いを言葉にして送ることができれば、俺は満足だった。
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