作戦

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

作戦

 我ながら、卑怯というか、浅ましいというか、情けないというか…まあ、とにかく、一般的には気持ちの良いものではないとは思う。でも、もう決めたんだ。  四月一日、春休み。しょっちゅう遊びに行っている幼馴染の怜史(れいじ)の部屋。ベッドに腰掛けて俺はスマホをいじる。SNSに流れる情報を目で追うけれど、何も頭には入ってこない。 「なあ、直斗(なおと)。お前理系だよな?」 「そうだけど。」 無駄にびくっと体が動いたのを、気付かれていないと良い。学習机に座っている怜史は大学案内から顔を上げて、大きく伸びをした。 「じゃ、2年生になったら大分授業違うよなぁ。」 高2になると、理系と文系とで受ける授業が大きく違う。怜史の声色からは、喜び悲しみ、どちらの感情も感じられない。残念なのは、俺だけか。 「残念だな…。」 と呟く怜史。え、と俺はスマホから目を離す。 「テスト前に、ノート見せてもらえないよなぁ。」 「そこは、自分で頑張れよ。」 何を期待してるんだ、俺は。怜史が俺と一緒の授業を受けられないのが残念なわけないだろ。 ああ、この作戦のせいだ。さっさと実行してしまえば良いんだ。もう今日は、ずっとまともに怜史の顔を見られていない。 「怜史。」 俺はベッドから立ち上がってスマホをポケットにしまう。「ん?」と座ったまま俺と目を合わせる怜史。眼鏡の奥に長い睫毛に縁取られた大きな瞳。色素の薄い髪が春の日差しを透かして輝く。何でこんなにキラキラしてんだ、こいつは。 心が折れそうになる自分を奮い立たせ、俺は怜史と目を合わせたまま、用意してきたセリフを言った。 「小さい頃からずっと、お前のことが好きなんだ。俺にとってお前は、特別な人なんだ。」 何度も繰り返し練習したおかげで、緊張した意識とは裏腹に口はうまく回ってくれた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!