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反撃
やっと、怜史が手を下ろした。まだ顔が赤い。そんなに悔しかったのか。少し悪いことをしたな、と思ってしまう。
怜史はふーっとため息をついて顔を上げた。
「直斗。」
少し低い、改まった声で俺の名前を呼ぶ。もしかして、怒っているのだろうか。怜史は立ち上がり、一歩俺に向かって踏み出す。すっと眼鏡を外して少し顔を近づけてくる。茶色い瞳に俺が映る。せっかくおさまってきた俺の胸の鼓動が、また激しくなる。
「直斗…好きだ。俺にとって、お前は誰よりも大切な存在なんだ。」
「なっ…。」
頭がくらくらする。視界にはチカチカと星が浮かぶ。ドッドッドッドッと心臓の音が耳の奥でする。
怜史は今、なんて言った?
今の「好きだ」は友達としての好き?
でも「誰よりも大切」って友達に使うか?
固まってしまった俺に、怜史はにこりとほほ笑んだ。
「ハッピーエイプリルフール。驚いたか?」
「……っ。」
言葉が出ない。手で顔を覆って俺はしゃがみ込んだ。何だ、それ。ずるい。俺の気持ちも知らないで。
嘘でも好きだと言ってもらえたことを、喜んでいいのか、悲しんでいいのか、それとも怒りを感じればいいのか、俺はよくわからなかった。感情がまとまらない。
しばらくしてから、俺は「ナイス演技力!」と精一杯の強がりコメントをし、用事を思い出したと適当なことを言って平静を装い家に帰った。
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