本当

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しかし、だとしたら、なぜ怜史は今ここに来ているんだ?絶交を言い渡しに来たのだろうか。 怜史が覚悟を決めたかのように話し始める。 「本当は、嘘かと思われるだろうから明日言おうと思ってたんだけど…帰り際のお前の顔が気になって。それで、よくよくお前の気持ち考えたら、もう…無理で。」 俺には話が見えない。無理って何が。俺の存在が? 「さっき、きちんと言わなくて悪かった。お前に嘘ってことにされたのが悲しくて、悔しくて、俺も仕返しで誤魔化した。でも、今度は違う。」 怜史は俺の方に体ごと向ける。ベッドが軋む。 「俺、本当にお前のことが好きなんだ。小さい頃からずっと。」 そう言うや否や、怜史は俺の顎をくいっと持ち上げてキスをした。見た目よりずっと、柔らかな唇の感触。 「俺は本気だ。」 本日2回目のくらくら。今の怜史の言葉が嘘じゃないのはわかる。冗談でキスなんてするやつじやない。それに、そんな真剣な眼差し、噓つきは向けない。顔も、耳まで真っ赤だ。予想外の展開に俺は軽くパニックだ。 「でも、お前、彼女いたじゃん…。」 やっと絞り出した言葉がこんなものになってしまう。 「あれは、お前のことを諦めようと思って付き合ってみただけだよ。『私のこと好きじゃないでしょ。』ってすぐに振られた。」 そうだったのか。そんなの、全然わからなかった。 俺の思いに真剣に答えてくれた幼馴染は、俺の隣でベッドのシーツをぎゅっと握りしめて体を強張らせている。 俺も言わなくては。エイプリルフールで武装していない言葉で、自分の気持ちを。 息を吐いて、吸って、覚悟を決めて。 「俺の方こそごめん、素直に言わなくて。俺も…お前のことが好きだ。」 真実を吐き出した唇が、再び重なる。
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