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佐奈子は箸を皿に置いた。
「うーん。思ってたとおりの答えだったし、自分でもそう思うけど、でも理屈通りに行動できないから困ってるんだよね」
佐奈子は箸を持ち、ポテトサラダをつかむ。
「でも、そこのところを聞かずに終わっちゃった」
ポテトを口に放り込んだ。マヨネーズたっぷりで舌触りが滑らかだ。
透也がお茶を飲んだ。
「そっか。で、何を悩んでるの。僕には言いにくい?」
初菜を見ると、キュウリと人参を口に入れるごとに頬に手をあてている。大人になったら食リポの仕事でもするつもりだろうか。
見るからに彼女は食べることに意識が向いているようで、親の話は聞いていないだろう。もし、聞いていても理解できないはずだ。でも、五歳にもなると、大人が思っているよりも理解しているときがあるし、逆に理解していないときは無防備に外で話すことがあるから言葉は選んだ方がいい。
「ママ友との関係。っていうか、付き合い方、かな」
佐奈子はハンバーグを箸で切り、中から出てくるチーズを肉で掬い上げた。それを食べることで憂鬱になりそうな気分を上げる。
「透也くんは自然にママたちと話してくるでしょ。でも、私、うまく話せないっていうか。いや、世間話は話せるんだけど。子どもの褒めあいっことか、相手を持ち上げることとかできなくて」
透也が箸を口元へ持っていったまま固まっている。
「さっちゃん、普通に人と親しく話せるのに。人見知りしないで誰とでも話せる感じ」
「あー、まあ、そうなんだけど。保育園のママたち相手だとなんか、ね」
口いっぱいにハンバーグや白いご飯を頬張った透也が顎を大きく動かしながら、佐奈子を見ている。
「僕はさ、ママたちから話しかけられること多いけど、言われることに返事して、気になっていること聞いてみるくらいだよ。そんなに世間話とかしなくても、男だからママたちも必要以上に踏み込んでこないってのはあるかもね。何もないのに褒めることもない」
チーズ入りハンバーグが美味しすぎて、透也が話している間に、佐奈子は平らげてしまった。
「そうだね、同性と異性じゃ無意識に対応違ってくるかも」
咀嚼しているせいで口を開けられないらしい透也は、大きく頭を縦に振る。首振り人形みたいな動作を見ても、佐奈子はかわいらしさを感じるよりため息が勝つ。
「それに誤解しないでほしいんだけど、何もないのに無理やり褒めあうとかはないよ。ただ、そんなにすごくないのに大げさに褒めるっていうのかな。うまくいえないんだけど。ちょっとしたことで、『そんなことできるんだ。すごいね』とか『ママ、頑張ってるね』とか、みんなサラッと言えるんだけど、私は言えないから」
吹き出す声が聞こえたと思ったら、透也がすごい勢いでむせていた。
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