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 どうやら気管に物を詰まらせたらしい。  初菜が隣から小さい手を伸ばして、透也の背中を撫でる。ジェスチャーで礼を言った彼はお茶を飲んで呼吸を整える。顔の表情から察するに、笑おうとしていたようだ。 「ごめん、ごめん。さっちゃんらしいなって思って」  もう一度、お茶を飲んだ。顔が緩み過ぎだ。 「正直だもんね、さっちゃん。『すごい』って言われればすごいのかもしれないけど、そんなわざわざ言うほどのものかって思うんでしょ。『頑張ってる』も。みんな似たようなもんじゃないの、みたいな」  佐奈子は言い当てられすぎて、ぐうの音も出ない。ポテトサラダと白いご飯を口いっぱいに頬張って返事しないアピールをする。  パンっと手を叩いた音がした。初菜が両手を合わせている。 「ごちそうさまでした。みて、ぜんぶたべたよ」  お皿とお茶碗を傾けて、親二人に見せてきた。  笑いが抑えきれていなかった透也が、顔を引き締める。 「はっちゃん、好きな食べ物の時だけじゃなくて、パパは毎日そうやってしっかり食べてほしいな」  はいっと片手を上げる初菜が愛おしい。  満足そうにうなずいた透也は再び目じりを下げる。 「いいんじゃない。無理して保育園のママたちと仲良くしなくてもさ。さっちゃんには、同世代の子どもがいる仕事仲間や学生時代からの友だちがいるんだから。あと、僕やはっちゃん、お義姉さんとかも」  佐奈子の口の中にあった物は喉に流れていった。それらと一緒に胸につかえているものが胃へと流れていけばいいのに、と思う。  水が流れる音がする。初菜が自分のお皿を運んでいる。透也がシンク前に立ち、水に濡れた手でそれを受け取った。 「いきなり離れるんじゃなくて。少しずつ距離を取ってけば。会話に入るのを減らしたり、公園で遊ぶ日を減らしたり、みたいにさ」  彼の穏やかな話し方のせいだろうか。望んでいたとおり、胸につかえていたものが水音とともにどこかへ流れていくのを感じた。
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