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娘と二人で、無言の夕食。
初めは娘の体調が悪いのかもしれないと思っていたが、ご飯はいつも完食するので、健康なのだろう。
今日は月曜日。
娘の好きなアニメをやっているので、娘は無言でテレビの前に座った。
その時間、私はいつもお風呂に入っている。
私がいると、娘は笑わないからだ。
せっかくのテレビを台無しにしたくない。
洗面所で体を拭いていると、娘の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
どうして、私の前では笑ってくれないの?
いつも、寂しい気持ちに襲われる。
夜。
寝る前に、私は机の引き出しを開ける。
中には、一枚の写真が入っている。
写真に写る男性は、優しく微笑んでいる。
「未来を月みたいに照らしてくれるお前の娘は、お前以上に人を優しい人に変えて、世界を愛で溢れさせるはずだよ。」
「……っ!」
視界がゆがんだ。
私はベッドに倒れ込む。
頭の中に、映像が流れ込んだ。
「御臨終です。力不足で、本当に申し訳ありませんでした。」
薬の匂いがする病室の中で、医師が頭を下げた。
寝てしまった娘を抱いた母が、ハンカチで涙を拭く。
母の隣に立つ夫の両親も、同様だった。
ベッドには、もう二度と動かなくなった夫が横たわっている。
痛い。
子供の頃骨折をした時よりも、滅多に体調を崩さないのに病気で入院した時よりも、娘を産んだ時よりも、遥かに痛い。
あのことは、もう思い出したくないのに。
綺麗さっぱり忘れて、楽しく暮らしたいのに。
いつまでもいつまでも無くならない記憶と、永遠に闘い続けるなんて、嫌なのに。
私は毛布を頭にかぶせる。
目をぎゅっとつぶり、涙を堪えた。
私の一日は、いつもそうやって終わる。
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