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ウソのはじまり
「嘘だ」
だって秋川、元気そうじゃん。ちょっと痩せたかなとは思ったけど、さっきだって一時間黒板の前に立って、現代文の講義していたし。
今だって前回の模試より明らかに下がった私の成績についてネチネチと嫌味ったらしく話していたし。少しも病人らしくないんですけど。
「嘘だなんて。悲しいな」
秋川は物憂げな顔をしてため息をついた。
えっ、えっ、えっ……マジ?
「今言った事は忘れてくれ。それからくれぐれも誰にも言うなよ」
秋川が深刻そうに眉を寄せた。
そんな秋川の悲しげな表情、初めて。
普段の偉そうな秋川とギャップがあり過ぎて……キュン。
「秋川先生、本当に余命半年なの?」
秋川が静かに頷いた。
「だからな、佐々木。俺たちは悔いのないように生きなきゃいけないんだ。佐々木も辛いと思うが、一緒に頑張ろう」
「う、うん」
実は嘘でしたなんて言えない空気……。
「よし。じゃあ、目の前の勉強を頑張ろう。人生の最期に大学合格の通知をもらおうじゃないか」
「はい。先生、私、勉強頑張ります!」
あれ? こんなはずじゃなかったのに。
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