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美代子の結婚式は十月五日にきまり、その前の九月頭に赤木輝興が三ノ宮家に引っ越しして来る事になっていた。
使用人には久遠がいない間は輝興を主人とする様に言われて、『輝興様』と使用人は呼ぶ様に言われた。
式を挙げれば赤木も『三ノ宮輝興』という名前になる。
久遠がいるのにどうして婿養子が必要なのかと一時、使用人の間でも話題に上ったが、平民には分からない財産分与だとか会社関係の事とかあるんでしょうねで終わっていた。
お盆休みは今年は取れないだろうと使用人全員が思っていたが、七月頭に使用人を集めて久遠から話をされた。
「今年は特別忙しく申し訳ない。お盆休みだが例年通り、今年多く休みを取る予定の者は取ってくれて構わない。幸い屋敷で祝言をしないので会場の準備はホテルがしてくれる。美代子の当日の装いは髪結いに依頼をしたので心配いりません。赤木が…美代子の夫になる者が九月に越して来ますが荷物整理は自分ですると言っているので、手伝いを頼まれた時だけお願いします。基本、赤木という男は自分の事は自分でしますので余り構わなくて大丈夫です。美代子の夫であり、三ノ宮家の一員であるという事だけ認識した上でその様に扱って下さい。」
「修繕は八月中に終わりそうですので皆さん、順次、予定通りお休みして下さいね。わたくしは年明けの挨拶を終えたら本宅に戻る事に致しました。年末年始は忙しくなりますのでお盆休みは遠慮なくゆっくりして下さい。それと…当主の久遠がわたくしより先に家を出ます。美代子の式が終わりましたら十月末には渡航予定です。当主がいないこの家の様子と新婚夫婦の様子を見てから本宅に参ります。新年早々に忙しくさせてしまいますがよろしくお願いしますね。」
久遠に続き久子が話すと集められた使用人は少し騒ついた。
元から東京の邸宅には仕事や夜会の度に久遠が月単位で滞在し、久子と美代子も一年の半分程度、年末年始や夜会の多い春から初夏、秋にひと月滞在する様な感じだったが、久子は美代子がこれからは夜会にも全て出席するのでこちらには余程の用事がなければ来ないと話し、久遠も外国に行くなら簡単には帰って来ないと聞くと不安に思う使用人もいたのだった。
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