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プロローグ
「おや?そこの旦那様、失礼ですが…あなた、死相が出ていますよ。」
「………はぁ?」
突然に声を掛けられて一瞬足を止め、間の抜けた声を男は出した。
「おやおや…これはこれは数十年に一人の死相だねぇ。旦那様の一族は随分と変わった呪いを受けておいでだねぇ。まぁ呪いなんて物は人が人に対して恨んだ結果ですけどね。」
久し振りに来た都会の屋敷、久し振りの街への外出。
自動車を降りて気が付けば同行者が消えていて薄暗く狭い路地へ迷い込んでいた。
陽がもうすぐ落ちるだろうオレンジ色の空、その色に染められ目を向けていた。
そこに灰色のショールを被った古い勝色の着物の老婆が道の端に小さなテーブルを置いて座っていて、異様に大きなルーペをかざしながら話しかけて来た。
(ふむ……うちの事はそれなりに有名だろうし何処まで当たるかは謎だな。)
と考えて相手にせずに路地を出ようと歩き出すと、老婆の言葉に再び足を止める。
一族は随分と変わった呪いを…その言葉が足を止めて老婆の前に身体を引き戻していた。
一族は昔から確かに変わった呪いを持っていて悩まされている。
この呪いは男子限定で跡継ぎほど酷い。
そして呪いを克服出来なければ成長と共に体力が落ちていき、少しずつ弱っていき死んでしまう。
実際、僕の父も早い死を迎えている。
父の場合は呪いは解かれたが幼い頃から体が弱かった事もあり、呪いに対し抵抗力や体力が追い付かず、せっかく呪いが解けても体は弱ってしまっていたのだと古くからの付き合いの医者が言っていた。
体が弱い人だった事がせっかく呪いを解いても短い命となってしまった結果だった。
呪いを解く方法は先代、先先代が解明してくれたが早死にを回避する手段はまた難しい。
呪いを解く為の手段に必要な物を探していて、自分が治めている土地とその周辺は散々探し回ったので、人の多く住むこの国の中心部の街を探し回る為に暫く首都のこの都の屋敷に滞在を決めていた。
本来ならば自分の土地の屋敷から出るのも嫌なのだが仕方なくだ。
伯爵家が呪いに掛かっている、というのは暗黙の了解で知られている話だがそれがどの様な呪いでどんな被害を受けているかは一族しか知らない。
聞かれても『美しい女性がそれ以上美しく見えない呪いですかね?』と答えていた。
『死相』とズバリ言い当てられて半信半疑で老婆に聞いた。
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