946人が本棚に入れています
本棚に追加
話し合いの後、美代子の結婚式と久遠の外国行きの準備で三ノ宮家は多忙を極めた。
三ノ宮家が古いしきたりの祝言を家で挙げる訳には行かないと、結婚式は会社の本社に近いホテルの会場で行われる事になり、祝言を近くのお寺で行う事になった。
本来は自宅での祝言なのだが、流行りを取り入れる事で働く女性の結婚、そしてドレスのアピールの狙いもあったらしい。
祝言は昔ながらの白無垢で厳格に行い、移動してホテルの宴会では社交界さながらのドレス姿とタキシードで華やかにと決まったそうで、オーダーメイドのそれはマダム長尾の店への注文になった。
久遠はと言うと仕事が益々忙しくなり、帰宅しても夜中で帰宅しない日も増えた。
そして時々参加する夜会は久子が話していた様に嫌々には見えず、必ず伊藤八重子をパートナーとして参加していた。
夜会では久遠の外国行きの挨拶も兼ねていた様で、先に支店を出している伊藤貿易が手を貸す事、八重子がその橋渡しをしていると噂され、八重子も久遠に付いて一緒に行くのだろうと囁かれていて、その話は三ノ宮家の中にも入り込んで来ていた。
「久遠様も結婚かぁ。まぁいいお歳ですしね。」
「そうね。今までお一人なのが不思議なくらい。まぁ外では遊び人とか言われていたみたいですけどね。ここでは女性は苦手ってみんな知ってましたから良かったですよね。お相手が見つかって。」
「美代子様のお相手が意外でしたけど、お部屋の準備に修繕にと短い期間で大変ね。新しい旦那様になる訳でしょ?怖い方だと思っていたから私は少し不安だわ。何か失敗したらどうしようって思っちゃう。」
二階の奥の部屋の壁を一部壊してドアを取り付け、新しく迎え入れる夫婦の為に改装中で、来てくれている職人さんへの差し入れの準備をしながら使用人のお喋りが始まっていた。
その中ですいは黙々とお茶の準備をしていた。
「すい?気分でも悪い?」
俯いていた事で心配した使用人仲間に訊き返されて、いいえと首を振る。
「そろそろお茶も冷たい物をお出しした方がいいかなって考えていました。」
「そうね…そういえばバタバタしている間に暑くなったわね。本格的に暑くなる前に夏の準備もしなくてはいけないわね。本当に今年は大忙しだわ。」
「今年の夏は長い休みは取れそうもないわね?美代子様の結婚式は十月でしょ?美代子様の旦那様のお荷物も届くし修繕間に合うかしら?」
行きましょうとお茶菓子ややかんを手に部屋を出て行くのにすいも続き、そうか…もうすぐここに来て丸二年かと遠い目をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!