パスタとマヨ焼き

1/6
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ

パスタとマヨ焼き

*女*  甘さ控えめの熱いココアを飲み、薬を服用する。  男には帰っていいと伝えたのに帰る気配がない。  私に手を出す気配もない。  通報しないんだから、さっさと帰ればいいのに。  めんどくさいな。  よくわからない男をよそに、薬の効き目を待つように私は目を閉じた。  薬が効いたら食欲も出るかもしれない。  まあ、効果を実感するには数日かかるかもとは言われているけど。  買い物行かないと…。  とぼんやりした頭で考えていたら、物音がした。  男がキッチンに立った音だ。  忘れていた…。うちには犯罪者(未遂)がいた。  先ほどは冷蔵庫しか見ていなかったが、今度は冷凍庫やらカラーボックスの中のカゴやら見ている。  そして何かを洗い切る音が聞こえてきた。  規則正しいトントントンという包丁の音。え、すごく上手くない?  そのうちいい匂いが漂ってきて、男が「食えるか?」と皿を座卓に並べた。  グラタンらしきものとパスタ。 「こっちなら食えると思う。」  とフォークでグラタンの皿をトントンと叩いた。 「じゃがいもがあったから、マッシュしてマヨ焼き。パスタは勝手にツナ缶と玉ねぎと冷凍野菜を使わせてもらった。マヨ焼き、マヨ嫌ならよけて。」 「え、はい。」  思わず「はい」なんて言ってしまった。  じゃがいもを皿に取り分け口に入れると 「美味し。」 「そりゃよかった。」  男もニット帽とマスクと眼鏡を外してじゃがいもとパスタを取り分け、食べ始めた。  初めてまともに見た男の素顔が思ったよりも若くてキリッとした男らしい綺麗な顔をしていて、なぜ犯罪に走ろうとしたのか不思議に思った。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!