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パンケーキ
*女*
あれからずっと眠りは浅い。朝が来ても体が重くてなかなか体を起こすことができない。
どうにか体と意識を覚醒させようと身じろぎしていると、声がかかった。
「…あのさ、冷蔵庫の卵、いつ買った?」
そういえば、男がいたな。あれ、名前知らない。
「…牛乳と一緒に買ったから、3日前…。」
「あー、じゃあ大丈夫か。秤とハンドミキサーある?」
「ない。」
男は少し、うーんと言った後、キッチンに向かったようだ。
一定のかしゃかしゃと音がして来た。なんとなく落ち着く。
やがて甘い香りが漂ってきて、私が起き上がって見ると
「食べられる?」
と座卓に湯気を立てたパンケーキが置かれた。
「う、うん。」
「シロップなかったからカラメルソース作った。好みでかけて。」
ふわふわのパンケーキをナイフとフォークで切って口に入れると驚いた。
「なんでこんなにふわしゅわなの?」
「卵を共立てにしたのと小麦粉少なめだからかな。秤がなかったから目分量だけど。」
「美味しいよ、魔法使いみたいだね。」
男はくすっと笑って言った。
「魔法使い?」
「だってもううちにあるもので、こんな美味しいものができると思ってなかったから。」
「卵があったからなんとか。まだパスタも残ってるから昼メシぐらいまでは作れる。」
「すごいね。」
カラメルソースをかけると、ほんのり苦くてプリンみたいになった。
「…昨日のこと、聞かないんだ?」
「別に言いたければ言えばいいし。」
「そうだね、あなたも言いたくなったら言って。」
「え…?」
「自暴自棄になるようなこと。」
男は俯いて残った一切れを口に入れ、皿を持ってキッチンに行った。
私も後に続いてキッチンに皿を置きに行き、洗面所に入って新品の歯ブラシを出し、皿を洗い始めた男に渡した。
「はい、タオルとかも使っていいから。」
「えっ、いいの?」
「シャワーも浴びていいよ。」
「え…着替えないし…。」
「そっか。」
なんだか気まずい空気が流れる。
「ま、いいや。ごちそうさま。皿洗いも…ありがとう。」
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