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*男*
新しい歯ブラシを渡してくれたりして驚いた。
あと「ありがとう。」というお礼も。
不思議な感情が湧き上がる。
彼女と一緒に食事をし、会話をし、穏やかな気持ちになるのがわかる。
でも、出て行かなきゃなあ。
そう思いながら歯を磨き洗顔し、洗面所から出ると彼女は昨日と同じ部屋の隅に座ってぼんやりとしていた。
やっぱり、一人にしておけない。
俺も昨日の場所に座る。
時々マンションの前を通る車やバイクのエンジン音や人声以外聞こえない。
時間だけがゆったりと過ぎていく。
久しぶりにこんな時間を過ごす。昔はこうして何も考えずに一人でいるのが好きだったな。
いつの頃からか考えすぎるほどに考えて、頭がパンパンになって疲れて…と思っていると、不意に声をかけられた。
「名前、聞いていい?」
「え、名前?」
「通報はしないって。」
「…広瀬 永遠」
「とわ?」
「えいえん、て書いてとわ。」
「いい名前。」
「えと、まひろさん?」
「え? あ、そうか。うん…。
崎根 真紘。」
「真紘…さん? 真紘…ちゃん?」
彼女がふふっと笑った。
綺麗だな。
「26才。」
「同い年だ。真紘ちゃん。」
「じゃあ…永遠くん?」
またふふっと笑い合う。
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