ココア

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*女*  訳がわからない。  10畳のフローリングのワンルーム、私は部屋の奥にあるクローゼットの前にクッションを敷き、膝を抱えて座っている。  男は玄関近くのキッチン入り口横の壁にもたれて座っている。  あれから2時間、沈黙が続く。  あー、しんどいなあ、と思っていると男が口を開いた。 「腹、減らない?」 「…減らない。」 「なんかないの?」 「ない。」  男は立ち上がり、勝手に冷蔵庫や棚を開けた。 「ほんとだ、ゼリー飲料しかない。食事、どうしてんの?」  なんでこんな質問されるのか、訳がわからない。 「食べるの、面倒。」 「だからそんなに痩せてんのか。」  うるさいな。でも薬飲まなきゃ。なにかお腹に入れなきゃ。 「ココア飲む?」 *男*  唐突に「ココア飲む?」と聞かれ、思わず「飲む。」と言ってしまった。  この状況に少し落ち込む。俺は何をしているんだ。  女はゆっくりと立ち上がり、俺の横を通り過ぎてキッチンへ向かった。  ナイフを持った知らない 男を怖がるふうでもなく、一瞥もせずに。  頬はこけているが伏せがちな二重の目を縁取る長いまつ毛、地毛の色なのだろう柔らかい茶色のさらさらとしたストレートの長い髪。  髪は無造作に一つに束ねられていて、健康的ならばかなりの美人だろうという横顔を見せていた。
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