14人が本棚に入れています
本棚に追加
*女*
訳がわからない。
10畳のフローリングのワンルーム、私は部屋の奥にあるクローゼットの前にクッションを敷き、膝を抱えて座っている。
男は玄関近くのキッチン入り口横の壁にもたれて座っている。
あれから2時間、沈黙が続く。
あー、しんどいなあ、と思っていると男が口を開いた。
「腹、減らない?」
「…減らない。」
「なんかないの?」
「ない。」
男は立ち上がり、勝手に冷蔵庫や棚を開けた。
「ほんとだ、ゼリー飲料しかない。食事、どうしてんの?」
なんでこんな質問されるのか、訳がわからない。
「食べるの、面倒。」
「だからそんなに痩せてんのか。」
うるさいな。でも薬飲まなきゃ。なにかお腹に入れなきゃ。
「ココア飲む?」
*男*
唐突に「ココア飲む?」と聞かれ、思わず「飲む。」と言ってしまった。
この状況に少し落ち込む。俺は何をしているんだ。
女はゆっくりと立ち上がり、俺の横を通り過ぎてキッチンへ向かった。
ナイフを持った知らない
男を怖がるふうでもなく、一瞥もせずに。
頬はこけているが伏せがちな二重の目を縁取る長いまつ毛、地毛の色なのだろう柔らかい茶色のさらさらとしたストレートの長い髪。
髪は無造作に一つに束ねられていて、健康的ならばかなりの美人だろうという横顔を見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!