ココア

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*女*  鍋にココアパウダーを入れ、火にかけて炒る。  水を入れて丁寧に艶が出るように練る。 「本格的だな。」  知らない間に男が後ろから覗いていた。  ミルクを注ぎながらゆっくりと温め、マグカップに入れて渡す。  そしてまた元の場所に座った。 *男*  ココアは甘さ控えめだが香り高く、体に染み渡るようだ。  マスクをほんの少しずらし、無言でゆっくりと飲む。 「足りないでしょう?」  飲み終わった女がキッチンにカップを持って行き、それからプチンと薬を出して飲んでいた。 「え?」 「あなた、まだ何もしてないから。通報しないから帰っていいわよ?」 「…不法侵入だしナイフ突きつけたし。一応犯罪まがいなことはしているし。」  再び女は元の場所に座った。 「それもそうね。でも通報はしないわよ。めんどくさいから。」  そう言って女は目を閉じた。  殺そうとしていた男の前でなんなんだ?  この無防備さは。
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