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*女*
お互いにそんなことを言って、無言で食べ終わり、男は食べ終わった皿をキッチンに運んで素晴らしい手際で洗って、おまけにシンクをピカピカに磨き上げた。
やっぱりプロの料理人なんだ。
「あ…、私、買い物に行かないと。もう何もないでしょ。」
「え、ああ、うん。」
「…さっきも言ったけど、通報する気はないから、帰っていいわよ?
美味しかった。ごちそうさま。」
男は「うーん…」と言いながらポツリと言った。
「帰るところがない。」
は?と思っている私に更に男は言った。
「もう外も暗いし、買い物に付き合う。」
どういうこと?
でも私はこの時間は家にいたくない。
焦る私に男はなぜか顔を赤くしながら続けた。
「人を殺して警察に捕まろうと思ってたから、アパート引き払ってきた。」
「そんな冷静な自暴自棄ってある?」
呆れて思わず言ってしまった。自暴自棄ってどういうものだっけ?
「実家とかは?」
「ない。」
ため息が出た。私だって鬱で細い紐の上を綱渡りのような感覚で生きているのに、なんだか厄介な事になってしまった。
そんなこんなであの時間が来た。
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