南海の姫

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 今更ながら自分についてきてしまったシエナに申し訳なく思う。 他の団員を選んでいたらこうして漁に出ることなく、高貴なお城暮らしが出来たはずだ。 「わたし、ここに来れて良かったと思う」 「そうかな……シエナ」 「アルサスは自信持ってよ」 シエナは次のことをよく話している。 お城暮らしは礼儀やマナーに煩い。さらに謀略や妬みが多くて気が休まらない。 ある事件の結果、傭兵団を追われ、地位を失って初めて得たものに気付いた。 それは自由だ。 「自然っていいなあ」  暢気(のんき)にシエナが話しているが、それどころじゃなくなっている。 「……動きが魚竜じゃない?」 船の下を巨大な影がうろうろしている。狙いは海の魚じゃなさそうだ。 「巨大烏賊(クラーケン)だ! こっち来るぞ!」 甲板で剣を抜き放ち、シエナは武器強化(エンチャント)の詠唱を始める。 素っ気ないアルサスだが芯は強い。
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