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「暑い、だめだ。日陰いこ」
笑いの波が引いてきた沙夜ちんと、逃げ込むように建物の影に移動する。あらためて手のものを確かめると、やっぱりイヤリングか何かの一部に思える。もういちどあたりを見ても、陽炎の立ちのぼるなかで探し物をしているような人はいない。
「どうしよう、交番に届けたほうがいいのかな」
「捨てちゃいなよ。どうせ壊れたアクセサリーだよ」
指先に乗せた三日月は脳天に受けた痛みからは想像できないほど軽く、それなのに吸い付くように安定して転がり落ちることもない。妙な存在感に惹かれて目を近づけると、三日月の横顔はものすごく細かく仕上げられ、細い皺やまつ毛まで彫り込まれている。
「これ、もらっちゃってもいいかな」
「気に入ったの?」
「うん」
沙夜ちんは「ふーん」と言ってから、
「いいんじゃない。きっと壊れたから誰かがポイ捨てしたんだよ。それに当たるんだから、みつきは……」
とまたケラケラと笑った。
さっき決意したのに、沙夜ちんの言うとおりあたしは不幸体質から抜け出せていない。というより、決意だけしてみたって人生が変わるわけもない。不幸から抜け出して最高の夏休みにするんだなんて、ついさっき宣言したばかりなのに。
なんだか急にしょんぼりしてしまった。それをごまかすために「むぅ」と沙夜ちんをすこしにらみつけ、三日月の顔をポケットへ入れた。
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