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子ウサギは詰めていた息を吐いた。ほぅ、と顔から力が抜け、それからもういちど真剣な表情になった。
「ありがとう、ミツキ」
両肩をぐっと掴まれ、金色の瞳に見つめられる。おもわずどきっとしそうになったけど、いまはそれどころじゃないはずだ。
「あたし、なにをすればいいの」
「まずは王宮に向かい、我々の王に会ってほしい」
「王宮って、お城? ムーンフェイスの? 月なんてどうやっていくのよ?」
「簡単さ」
「な、ちょっ──!」
子ウサギの手があたしの両肩からお尻に回された。高く抱き抱えられた瞬間、とんでもないことに気付いた。
「こ、こら、暴れるな、ミツキ」
そんなこと言ったって、あなた全裸じゃんかっ!
恥ずかしさに目を開けていられない。両手で顔を覆い、息もできなくなる。ところが、そのままストンと降ろされた。足下からサクっと音がした。
「どうした。目を開けろよ」
おそるおそる目を開けてみる。
「どこよ、ここー!?」
足下はサラサラとした薄桃色の砂。あちこちにむき出しの岩がゴロゴロとして空も淡いピンク色に染まっている。空にひとつ、青く大きな球体がくっきりと浮かんでいる。
「どこって、月に決まってるだろ」
月? ここが月? そんなわけない。写真や映画で見た月面っていうのは、こんなじゃなかった。灰みたいな地面をして、やたらと強い光線があたって、真っ黒な影ができていた。空なんて呼べるものはなくて、ただ暗黒の宇宙空間の下だった。
「ねぇ、あの空に見えてるのって……」
震える指で空を指す。色合いの薄い景色のなかで、ひとつだけはっきりと存在感を放っている青と白の球体。
「ああ、あれがミツキたちの地球だよ」
うそだ。いくらなんでも、あんなに大きく見えるわけがない。
「ねぇ、子ウサギ。あの地球って──」
「なぁ、その子ウサギっていうのはやめてくれ。言っただろう。さっきのは仮の姿なんだ」
「あ、そうか。そうだね」
「俺はウェイン。ウェイン=アブルフェーダ」
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