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教室がホッと緩んだ。どうやらちょっと雑談して終わりにしてくれそうだ。
「月は地球のまわりを公転しながら、同じ時間で自転しています。そのため月はいつも同じ面を地球に向けたままなんです。でも、月からは地球が回っているのが見えるんですよ」
公転しながら自転? 宇宙に浮かぶ地球と月を思い浮かべて頭のなかで動かしてみるけど、よくわからない。
「月からは地球のすべてを見ることができます。海も山も世界中の国々も、月からは見ることができるのに地球からはいつもおなじ月しか見られない。北極や南極にいっても、日本の反対側の国にいっても、この町から見上げるのとおなじ月なんです。まるで、月はなにか秘密を持っていて、それを地球には決して見せないようにしているんじゃないか、そんな空想をしてみたくなりませんか」
そこでチャイムがなり、雪乃先生は教科書を閉じた。
「じゃあ、これで補習は終わります。みんな、新学期はもっと勉強してくださいね」
ダぁーとみんながいっせいに力を抜き、先生は笑って教室を出て行った。
「終わったぁー。はやく帰ろ、みつき。はやく、はやく」
さっさと荷物をしまった沙夜ちんは、カバンを抱えたままあたしの前で足踏みまではじめる。ポニーテールがひょいひょいと揺れている。
「ちょっと待って」
「待たないって。これ、はやく脱ぎたいんだから」
沙夜ちんはセーラー服の裾をつまむと、パタパタと空気を送り込む。この場でいまにも着替えだしそうな沙夜ちんを脇目に、あたしは冷静にペンケースの中身を確認し、ノートや教科書に挟まっている物がないかパララとめくってからカバンにしまう。机のなかを慎重にのぞき込み、教室をぐるっと見回してなにか残したものがないか確かめる。
「そんなに確かめたって無駄でしょ。みつきの場合は」
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