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「こんなものしかないけど」
小さな丸パンを乗せたお皿が出された。薄く削いだお肉が挟んである。色の濃いタレが絡めてあって、沙夜ちんと食べたテリヤキバーガーを思い出した。
ひとりはぐれて途方に暮れていたあたしは、塔ですれ違っただけの若い夫婦を見るなり泣き出してしまった。
ふたりはおろおろとしながら、まずは落ち着きなさいと家へあたしを連れ帰り、こうして夕食まで出してくれた。
「どの店も品揃えが悪い時期なんだ。わかるだろ」
そう言ったキースさんは、ベッドで赤子をあやしている妻のシラーさんのところに同じものを出して戻ってくる。
「リグルの残りが少ないから?」
キースさんはこくりと頷く。
「あんたにはさっき、誇りを捨てるなって言われたけど、悪いな、リグルを切らすわけにはいかないんだよ」
「あたしのほうこそ、勝手なこと言って」
「いや、正しいのはあんたのほうなんだ。わかってるよ、おれたちは脅迫されて正しくないことをやっているって。でも、リバースに従わないと、いまの生活を続けることができない……」
子どもを寝かしつけたシラーさんがやってくる。
「私たちも友だちと相談したの。みんなで反抗するべきかって。でも、そうできるだけのリグルがもう残ってなかった」
そうだったんだ。きっと悩んだ末の選択だったんだ。それなのに、あたしは責めるようなことを言ってしまった。
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