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「なんで。そのままでいいじゃん」
「だって、男子ってみんな、ゆきちゃん先生みたいな子が好きなんだよ。ちいさくって儚げな感じとか」
陸上部の沙夜ちんは日に焼けて引き締まった身体をしている。シャープでカモシカみたいな体つきはすごく格好いいけれど、小柄でふんわりとした雪野先生とは正反対だ。
「沙夜ちんみたいなタイプが好きって男子もいるって」
そう言ったけれど、沙夜ちんは顔を伏せてため息をついた。いいかげん名前くらい教えてくれればいいのに、誰のことだかわからないから励ましもアドバイスも中途半端だ。
「ねぇ、みつきはさ、ゆきちゃん先生の彼氏ってどんな人だと思う?」
だいぶ思い詰めてるなぁ、沙夜ちん。
「彼氏なんていないと思うよ。補習のときだってなんだかさみしそうだったじゃん」
「あー、月のやつ? 月やあらん、だっけ」
「あらぬ、だよ。切ない歌です、なんて言ってたじゃん」
「言ったねー」
「それこそ片思いしてるんじゃない? しかも、その人には二度と会えないとか」
「え、死に別れ?」
「そこまで言わないけど、携帯も訊けないまま引っ越しちゃったとか、他の女性と結婚して遠い町に行っちゃったとかさ。それでさっきの和歌にあんなに反応したのかも」
「先生、そんな悲しみを背負って……」
雪乃先生を相手に好き勝手なことを言っていると、唐突に沙夜ちんが「決めた」と言った。
「あたし、この夏休み中に告白する」
「なんか急にきたね。ねえ、もう誰だか教えてよ。クラスの人? それとも陸上部の人?」
「言わない」
「なんでよ」
「さっきのさ、好きな人にもう二度と会えないって話……」
沙夜ちんはすこし声のトーンを落とす。
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