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「ミツキちゃん、だっけ。あなたこそ、なにがあったの?」
シラーさんが優しく聞いてくる。どこまで話していいのだろう。話してはいけないことは……。
この都市は、リバースに支配されかけている。目の前のキースさんたちは、リバースに従うと宣誓を済ませてしまった。王都からウェインたちと一緒に来たと話したら、この家から追い出されるだろうか。それどころか武装兵に突き出されるかもしれない。そうなったらどんな扱いを受けるだろう。
どうしていいかわからない。もう、こんな世界にいたくない。ウェインもアーキスも知らない。ムーンフェイスもリバースもどうでもいい。地球に……家族や沙夜ちんのいる世界に帰りたい。ひょっとしたらもう帰れない……。
急に涙があふれた。テーブルの上にパタタッと大きく落ちた。両手で顔を覆い、声を殺す。シラーさんの手が、しゃくりあげるあたしの背中に当てられる。
「かわいそうに。よっぽど辛いことがあったのね」
そう言ってテーブルを回り込むと、あたしの隣りについた。肩に手が回され引き寄せられる。シラーさんの体から赤ちゃんの匂いがした。そのまま、じっと黙ったままあたしのことを抱えてくれた。
どのくらいそうしていたのか、あたしが落ち着くとシラーさんはそっと体を離した。
「なんでも話してくれて大丈夫だから。なにがあったのか、ぜんぶ教えて」
「あたしは──」
なにを話すべきか、なんてもう判断できなかった。
「あたしは、地球からきたんです」
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