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「それにしたって、あんたみたいな子がよく潜入なんて」
あたしが体を起こして涙を拭くと、じっと話を聞いていたキースさんが言った。
「他の人たちはみんなリグルが切れる寸前で、でもあたしにはその心配がないから」
「そうか、わずかなリグルで、敵に寝返った都市に潜入なんてできるわけないよな」
「ライナーも言ってました。執政官はみんなが自由に動けない時を狙ったんだって」
「そうね。私たちもリグルに余裕があったら、反抗するとか他所の都市に移動することだってできたのに」
「ああ。どんなに嫌なことでも、追い込まれてからだと従わざるを得なくなるんだ。俺たちみたいに」
そのとき、突然シラーさんが立ち上がった。驚いた顔で左右の手を見比べるように視線を動かしている。
「え!? なんで……!?」
「どうした?」
「あたし、リグルが回復してる」
「なんだって!?」
「本当よ。これなら半月は動けるわ。いったいどうして」
キースさんも驚きながら、精神を集中するように目を閉じる。
「……俺のリグルは戻ってない。どうしてだ」
シラーさんは慌ただしくキースさんの手を取ると、しばらく動きを止める。次に寝ている子どものところに行って同じように手を重ねる。アーキスとライナーが部隊のみんなとしていたように、あたしには感じ取れないリグルの譲り渡しが行われる。
シラーさんと赤子を見守りながら、キースさんがあたしに聞く。
「ミツキさん、あなたがシラーにリグルを……?」
ぶんぶん、と首を振る
「あたしにはリグルなんて無いです」
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