24人が本棚に入れています
本棚に追加
「ウェイン、なんだその格好は」
「兄上こそ」
ふたりとも互いの姿に吹き出した。膨らんだ胴回りの装いと乱れ髪のおふたりは、いつものスラリとしたお姿とかけ離れ、これが国中の女性を魅了するムーンフェイスのダブルプリンスだとは、みんな夢にも思わないだろう。
アーキスさんの見事な手際で変身したおふたりは、誰にも見とめられることなく地階まで降りることができた。
塔の基部に走る十字の太い通路を東へ向かう。抜け穴もミツキ様の走っていった方向もこっちだ。
大通路を進んでいくと、なんだか妙な様子になってきた。出口に人が立ちすくみ、何人かはこちらへと後退るように戻ってくる。
何事かと四人で顔を見合わせる。出口から外を見て、僕たちの足も止まった。
何十人? 何百人? 大勢の人がこちらへ向かって歩いてくる。この時期はみんなリグルを消費しないよう息を詰めているはずなのに、切羽詰まったような様子もない。
集団がどんどんと距離を詰めてくる。それを迎え見ている武装兵もいるけれど、何もできないまま塔の奥へと引き下がっていく。
ついに集団は塔のなかへ踏み込んだ。なだれ込んでいく人たちの余裕のある顔付きと堂々とした態度を壁際に貼り付いて見送る。とても儀式の前日とは思えない。集団の後方に新しく加わる人もいる。そこには思ったとおりミツキ様の姿があった。
新しい参加者は、ミツキ様とすこしのあいだ手をつなぐと、驚きと感激を表してから集団の前へと馳せ加わっていく。
「これほどのことができるとは」
アルター様がつぶやき、ウェイン様とアーキスさんは呆然と、まだ遠いミツキ様を見つめている。何百という人を行動させられるほどのリグルを、ミツキ様が与えている。
最初のコメントを投稿しよう!