解放? それとも拉致?

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「グォオオオ」  市民に取り囲まれておとなしくなっていた巨体の武装兵が、叫びを上げ、身をよじるように立ち上がった。みんなが目を向けるなかで、その身体が膨れあがっていく。まとっている鎧の止め具が弾け飛び、脱げ落ちた。その下から青黒い肌が現れる。黒い体毛が胸や肩、手足の先に生えている、身体中の大きな筋肉がさらにメキメキと盛り上がっていく。さっきまで仲間だった武装兵も腰を抜かして、尻をつけたまま後退る。  長い爪を生やした手で兜をむしり取ると、その頭はみるみる山羊のものへと形を変え、さらに捻れた角を伸ばしていく。  神殿の中央に、人の背の二、三倍はある青黒い悪魔が出現した。 「やれ! ヴァスコ!!」  ラモントの命令に巨軀なる悪魔は激しい咆哮をあげ、群衆のなかへ飛び込んだ。市民たちは慌てて魔法の盾で身を守ろうとしたけれど、横薙ぎに振るわれた悪魔の腕は、その怪力で何人もを殴り飛ばした。暴れ狂うその怪力は何人もを宙を舞わせ、四方の壁に叩きつける。市民はパニックになっていっせいに出口へと押し寄せる。 「固まってはダメだ! 防御を!」  ウェインが叫ぶ間もなく、青黒い悪魔は高く跳躍し、またも集まりとなった人々のなかへと飛び込んだ。また何人かが餌食になる。逃げ惑う市民を背中から襲い、殴りつけ、蹴り散らす。 「うおぉぉーッ」  ウェインは剣も持たずに悪魔の前へ躍り出た。金色の光を帯びた拳が、背の高い悪魔の太腿へ打ち込まれる。なにかの魔法のかかった攻撃が効いたのか、悪魔は短い声をあげると後方へ跳んで距離を取る。おおきく口を開け、息を吸い込んだ。あっ、と思う間もなく、ウェインとその後ろにいる人たちへ豪炎が吐き出された。  ウェインは早口でなにか唱え、両腕を突き出す。金色に輝く透明な盾が現れる。地球で、子ウサギの姿だった時にも見せた巨大な盾が、悪魔の吐き出す炎を堰き止める。  人々は狭い出口から少しずつ避難している。アルターとアーキス、そしてライナーは、悪魔に襲われた人たちに治癒の魔法を施している。怪我した人は神殿のあちこちにまだたくさんいて、何人かが治療をしたり、こちらへ引きずってこようとしている。あたしも目を走らせる。神殿の奥にひとり、誰も気付かれないまま倒れている人がいる。こっちへ連れてこないと──考えずに駆け出した。 「ミツキ! ダメだっ!!」  炎を押しとどめたままウェインが叫んだ。あっ、と思った時にはもう遅かった。円柱の上からラモントが飛翔した。あたしの背後に飛び降りた瞬間、バリバリっと身体中に電気が走った。 「きゃうっ」  見えるものが横倒しになっていく。飛べるなんて反則じゃん、ああ、でもウェインも……そこで世界は真っ暗になった。
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