3.対極

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「か、川瀬」 僕が呼びかけても無表情を保ったまま、 川瀬は神代さんと並んで僕を見下ろした。 「さて。葵くん、いえ、岸野くんの言い分を 一緒に聞きましょうか。川瀬くん」 神代さんの言葉に、川瀬が頷いた。 「岸野。人の恋心をゲームみたいに扱うな」 「な、何のこと?」 「お前が俺を好きなことくらい最初から わかってた。でもちょっとでも自分の思い 通りにならないと、お前はたぶん誰かに すがる。今回はそれを試させてもらった」 「え。じゃあ、神代さんも協力者なの?」 「そう。岸野くんを好きなフリをするの、 大変だったのよ」 「そんな‥‥」 「で?お前は、何で泣いてるんだ」 「だって!川瀬が僕のことが好きだって 言うのに、突然冷たくなるから!悪いと 思ったけど、神代さんに慰めてもらおう って。でもやっぱり川瀬が好きだし、 忘れたくないって思って」 「あーそうですか。言っておくけど、 付き合ったとしても俺はひとりの時間を 大切にしたいし、あまりベタベタするのは 好きじゃない。依存症で主体性のないお前の 思い通りには絶対にならないけど大丈夫か」 「ひどいよ、依存症で主体性のないって ただの悪口じゃん」 「ホントのことだろ」 「神代さん、僕はそんなにヤバい人ですか」 「川瀬くん、よく見てるよね」 「神代さんまで、そんな」 項垂れた僕の目の前に、川瀬が座り込んだ。 「腹は立つけど、しばらく側にいてやる。 でも、浮気したらすぐにサヨナラだから」 「しないよ。川瀬がいてくれるなら」 「神代さんに泣きついたくせによく言うよ。 俺はかなり嫉妬深いから。覚悟しろ」 「川瀬!」 たまらなくなって、僕は川瀬に抱きついた。 「揺れ動いて、ごめんなさい‥‥」 「やれやれ」 呆れた声とは裏腹に、 川瀬は僕を優しく抱きしめてくれた。 「これからは、誰にでも尻尾を振るなよ?」
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