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当時8歳のとある夏の日。私は10年後の今日までは蒼空君と一緒にいないと死んでしまうということを聞かされた。
正確には蒼空君と距離が離れれば離れるほど息を吸うことが困難になるそう。
あの日海で事故にあってしまった私には大きな手術を耐えきるだけの生命力が足りず、私の両親は死を待つか生命力を移植するかという選択を迫られた。
生命力の鮮度を踏まえてドナーになることができるのは提供時の年齢が25歳までの者と定められていることから両親は生命力を提供することができず諦め始めていた時に、私の母の幼馴染であった蒼空君のお母さんが蒼空君をドナーとして差し出したのだそう。
【生命力の移植を受けた者は提供者から離れると徐々に息を吸うことができなくなる】
【その作用は10年間続くが、移植を受けた日から10年丁度で無くなる】
【周囲がその関係性を確認できるように、移植を受けたものは左手の小指に、与えた者は右手の小指にイグジストリングと呼ばれる赤い指輪を10年間装着し続けること】
目が覚めて落ち着いてきた頃にお医者さんから受けたその説明も8歳だった私たちにはきっと半分も理解できていなくて、病室でもずっとそばにいることを課せられて退屈そうにしていた蒼空君がトイレに行くと嘘をついて軽率に病院を出ただけでどれだけ吸い込んでも口からも鼻からも酸素が入って来なくなってしまって看護師さんが急いで蒼空君を連れて病室に駆け込んできたりもした。
あの時の蒼空君の動揺し切った青白い顔は今でも忘れない。
その事件があってから私たち家族と蒼空君の家族は同じマンションの隣の部屋を借りて過ごすことになり、軽い気持ちと行動で私を殺しかけたことがトラウマになっているのだろう。必要以上に蒼空君は私の近くにいてくれるようになった。
約束された10年が近づくに連れて距離が離れたことによる息苦しさも徐々に緩和されてきていて、きっと別々のクラスになって例えば移動教室なんかでお互いがある程度離れてしまったとしても耐えられるくらいにはなったと思う。具体的にどれだけ離れたら致命的に息ができなくなるかを測ったことはないから確実なことは何も言えないけれど。
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