9年目の冬Ⅲ

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進路相談やお説教などに使われるこの空き教室。ほとんどの机と椅子が後ろに下げられている中で6つだけ班のように組まれた机が中央に用意されていて、先に教室に入った先生が何も言わずにその真ん中の椅子を引いて腰掛けたので私もその向かいの椅子を引いた。 あまりにガチガチな私を見て笑いながら「別に説教とかで呼んだわけじゃないからそんなに身構えないでくれよ」と言われたけれど、そもそもこうやって呼び出されるというイレギュラーな状況自体に身構えているのだから警戒心は拭えない。 先生はスーツの上着を軽く正してから私と目を合わせるとここへ呼び出した本題を話し出した。 「……来年度のクラス分けの話なんだ」 ああ、そんな時期か。 「坂本とは、どうする? 」 1年の時は同じクラスでと頼み、2年は離してほしいと頼む。完全に私の我儘なのに共存の事情なのであれば仕方ないと簡単に受け入れられてきた。 蒼空君とある程度の距離があっても同じ校内であれば呼吸には何の影響もないことがわかった2年。でもわざわざクラスを離してほしいと言う程に離れたいという気持ちもない。 「……どちらでもいいです。もう普通の生徒と同じようにクラスを組んでいただいて構いません」 「そうか。……聞いているとは思うんだが坂本には理転を薦めていてな。3年からの理転は結構厳しいんだが坂本の頭ならいけるだろうし。次の夏で共存も解けるのであれば、進学の選択肢を増やす意味でもな。クラスが別れても問題ないのであれば強めに打診できる」 聞いているとは思う。その前提で話されたその事実を今知った私。 どんなリアクションが知っていた人のリアクションに該当するものなのかわからず苦笑するしかなく「そこは、本人の意思次第ですね」とボロの出ない最低限のコメントを返すことしかできなかった。 本当はもっと前から、蒼空君は理系であった方が良いと思われていただろう。最近はあまり感じていなかった蒼空君の未来を潰している感覚が久々に胸の深いところで蠢く。 「そしてな、先生たちの間では夏に水島が倒れた時に助けになったからという理由で村上とは同じクラスにしたいという案が出ているんだけど、それは問題ないか? 」 次いで先生から出された、例年にはなかった提案。それにはまるで反射のように「はい」と答えていた自分に驚愕し、絶望した。 蒼空君が離れてしまった時に上手く呼吸ができなくなった自分を理解して助けてあげられるのが自分だけになってしまう状況を想像よりも先に怖がってしまった。 こんなの、陽君が生け贄みたいじゃないか。 「でもそれも、本人の意思次第で、お願いします」 偽善の詰まった取って付けたような台詞を、先生は「わかった」と笑顔で受け取った。 「それだけだ。時間取らせたな」 そう言って立ち上がる先生。答えは出ていたようなものだったから話し合いというよりは一問一答で、案外短く終えた気がする。
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