1年目の夏

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チャイムが鳴りドアを開けるとそこには蒼空君と蒼空君のお母さんがいた。 私から少し遅れてやってきたお母さんが玄関に置いてある車のキーを取る。 「誰かを乗せて運転するの久し振りだから緊張するわー」 「運転できるのあなただけなんだから、安全運転でお願いね」 おしとやかなイメージの蒼空君のお母さんとどちらかというと活発な私のお母さん。この二人が学生の頃からの親友だということを何年経っても信じ切れていないので、こうやって仲良さげに会話をしている姿には未だに慣れない。 蒼空君はいつもと変わらない様子。和気藹々とした親同士の会話の後ろで澄ましたような表情をしている。 「じゃあ、行こっか」 先に歩き出したのは親たち。その後ろに私たちが並んで続くと蒼空君が私の首の後ろ辺りに手を伸ばしワンピースの襟に触れた。 「変に折れてる」 「嘘、ありがとう」 「もう呼吸、一人でもできてるんでしょ」 普段通りのやり取りで落ち着いた瞬間に槍で刺された気分。 「俺でさえ急に感覚変わったのがわかったから花は如実なんだろうなって思った」 「うん、ちょっと過呼吸気味になったけど、もう平気」 「そっか」 目の前で何やら女子高生のように盛り上がった会話をしている親同士の背中を見ながら、隠れてする内緒話をしている時と似たような空気感で過ごす私たち。いつもの温度を感じてはいるけれど昨日までの私たちとは違って、そこに確実にあったものが今はもうない。
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