1年目の夏

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運転席にはもちろん私のお母さんが乗り込み、その隣は私だと思い込んでいたけれど先に蒼空君のお母さんが迷わずに助手席のドアに手を掛けたので後ろのドアを開けて乗り込んでいた蒼空君に続いた。 別に隣に座ることに今更なんの躊躇いもない。 ゆっくりと発車して右折した際に肩が触れてもなんの感情も動かない。 お母さんの運転へ共通して持っていた不安感から走り出しは張り詰めて沈黙した車内。軌道に乗って速度が徐々に上がっていって目に見えず緩んできたものを感じ出した時、蒼空君のお母さんが「これは絶対最後の日に二人に伝えようと思ったことなんだけどね」と話し始めた。 「本当はね、私には三歳下の弟がいたの」 あからさまにはならないように、雰囲気だけ感じ取ることができるように顔を少しだけ動かしてほとんど横目で隣を見ると蒼空君はいつもより目を開いて助手席を見ていた。バックミラーでその表情を確認した蒼空君のお母さんはそのまま話を続ける。 「私が中学生の時に事故にあってしまったんだけどね、私、その先の10年間の事を考えると怖くて生命力の提供に名乗り出られなかったの。そうしたら弟はそのまま亡くなって、勿論私が提供しなかったせいでもあるから感情が壊れてしまって。そんなときになんとか私を宥めて、留めてくれたのが花ちゃんのお母さんだったから」 反射的に運転席を見てしまったけれど私のお母さんは真っ直ぐ前を見て運転していてこの話について干渉するつもりはない様子だ。 「そういう色々な理由で花ちゃんが弟と同じ状態になった時に蒼空の生命力の提供を提案したの。……私のエゴで、ずっと辛い思いさせて本当にごめんなさい」 後半はこちらに振り返って言葉を発したものだから、蒼空君は目が合った状態で重すぎる謝罪を受けることになってしまった。 共存が解けるまでこの事実を知らせずに10年間を蒼空君の近くで過ごすのも苦しいものがあったに違いない。それでも涙を流すことなく伝えきった蒼空君のお母さんはどんな言葉も受け入れるつもりでいるようなしっかりとした表情で蒼空君を見据えていた。 「なんで皆して謝るんだよ……」 皆。そこに含まれるのは間違いなく私。 「俺、自分の生きなかった世界の自分が俺より幸せだと思いたくないよ」 そう弱々しく呟いた蒼空君は私が今まで接してきた中で一番少年だった。10年間私を守ってくれていた兵士の鎧がすべて落ちて、どこにでもいる、普通の。
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