1年目の夏

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病院に着いてすぐに私と蒼空君は別々に身体検査が行われ、お互いに大きな異変もなく私の自発呼吸も問題なく行われていることが確認できた。 検査は約3時間ほどかけて丁寧に行われ、最後にイグジストリングを外す処理をすることが伝えられる。指輪を付けたまま成長期の10年を過ごしたので引っ張るだけでは外れるわけがない。専用の機械を使用するらしく、その用意のための時間を私と蒼空君は処置室の外の椅子に掛けて待つように言われた。 車での一件以来の対面。そしてこうして二人セットで扱われるのが最後になるであろう時間に少しの恥じらいと隠し切れない寂しさを覚えながら過ごす。 「蒼空君」 「ん? 」 「ありがとね、10年間私を守ってくれて」 「別に守ってたつもりはないよ」 「蒼空君が色んなものを犠牲にしてくれていたから、私も生きられたんだもん。守られていたようなものだよ」 「前にも言ったけど、俺、10年間で不幸だと思ったことは一度もないよ」 「私は、蒼空君がもっと幸せを感じられる人生があったはずだとまだ思ってる。だからこれから先はお互いこの10年間より幸せだと思えるように一生懸命生きよう」 「わかった」 「約束ね」 「うん」 「……でも、私とも会ってね」 「わかってるから泣かないで」 これは今生ではないけれど明確な別れだ。 堪えていたものの気持ちを伝えている最中に身体の中心から上へと上がってくるものを止めることができず、為す術もなく溢れていたそれを蒼空君は右手の人差し指で掬う。視界に小指の赤い指輪が映って、私は更に泣いた。
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