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「あ、これ」
テレビを見ながら朝食のトーストにピーナッツクリームを塗っていると、テレビから流れてきたCMの言葉に意識を持っていかれて手が止まった。
近くで私の分のお弁当を詰めていた母が「なに? 」と声を掛けてくる。こちらは器用に手を動かしたまま。
「この映画、原作の小説を蒼空君が買ってた気がする」
中学に上がった辺りから蒼空君は下校時に定期的に本屋に寄るようになった。
私のせいで蒼空君の買い物には私がついていくことになるし、私のせいでできることも制限されてしまう。そんな生活を強いられた中で読書は最適で唯一の趣味になっていったんだと思う。
時刻は7時50分。朝食を終えて制服に着替え、身だしなみを整えようとすると時計はすでにいつもの時間を指していて。慌てて玄関に向かい家のドアを開けると蒼空君が目の前で携帯をいじりながら私を待っていた。
対面したことで空気がよりクリアな状態で肺に運ばれていく。
「ごめん蒼空君おはよう」
「おはよう、もう行ける?」
「大丈夫」
蒼空君は私に向けて手を伸ばすと斜めに傾いた私の首元のリボンをサッと直してから「じゃあ行くよ」とぶっきらぼうに放つ。
「カーディガンのボタンも掛け違えてるけど、それも直してあげた方がいい? 」
「……これは、大丈夫!」
そう、と呟いて歩みを進めた蒼空君の後ろを掛け違えたボタンを直しながらついていく。このままどこかに隠れて振り返った時に私の姿が見えなかったらこの綺麗なポーカーフェイスを簡単に崩すことが出来るんだろうな。いつもそう考えてひっそりと優越感に浸っている私は心底性格が悪い。
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