夏の終わりを見た話

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耳が良い自分が苦手だった。 聞こえなくていいものが聞こえるから。 どうやらこのバンドにとっては、 夏の意味は「夏」じゃなかったようだ。 だから感じられなかったんだ。夏の終わりを。 太陽が眩しい、肌が焼ける夏のことじゃなかった。 それが聞こえたのは全身が震える冬の日だった。 初めて、優しい君から凍るような冷たい視線を向けられた日だった。 大事なものをたくさん失った帰り道のプレイリストに、この曲が入っていた。 立ち止まってしまった。いつもの帰り道の中で。 大泣きした。聞こえなくてもいいものに。 真冬の寒さの中で、夏の終わりを感じた。 他人の目ばかり気にしてきた自分が、周りの目を気にすることもなく。 大泣きした。 夏の思い出を振り返って、終わらないでと願う可愛い曲じゃなかった。 ただの微笑ましいデュエットソングじゃなかった。 恋人が、お互いの幸せを願う曲じゃなかった。 ほんとは、すれ違いの曲。 1人の愛が、もう片方より重い曲。 片方が、片方の幸せを願う曲。 デュエットなのに、1人の曲。  君とよく2人で歌ったことが、なんて皮肉だったことか。 1人で歩く帰り道で、耳の中に響いた。 飛ばしたくても、飛ばせなかった。 だから最後まで聴いた。 やっと意味を持った歌詞を聞いた。 夏の終わりを聴いた。 噛み締める今日も、もう終わってしまったのに。 時間は、止まってくれないのに。 伸びた君の影は、消えてしまったのに。 イヤホンの中で歌う声に、持っていいはずもない期待を添えて、共感した。 か細い、白い息に変わる声で、耳の中のアーティストとデュエットした。
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