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「北区言うたら西の金閣寺。日本人なら一度は行ったことあるんちゃう? かの名将軍足利義満がつくったんや」  北区にある実家から金閣寺は、ほぼ一本道で行ける場所にあった。  私が小学校に上がる直前のことだ。母は妹を出産するため、入院していた。    まだ肌寒い中、母のぬくもりがなくなって、余計に寂しかった。父とふたりきりの家。母がいない我が家はがらんどうと化していた。  当時の私には、マンションの窓から見える景色に気になるものがあった。台形をした瓦屋根が、西の山の中腹に鎮座しているのだ。あれはなんだろう?   私は、小さな椅子に乗って、それを窓越しに眺めていた。  すると、『探しに行こか』と、父がボソリと言った。  寒空の下、ママチャリの後部座席に乗って、鞍馬口通りをまっすぐ西に向かった。父の背中は、母の背中よりずっと大きくて、やっぱりお父さんだと幼心に感じたものだ。  瓦屋根の正体は、なんと金閣寺の境内にある庫裏といって、台所として使われていた建物だった。庫裏の西には金閣寺が構えていることが分かって、えらく感激した。  観光客でごった返す中、父とふたり、耳を澄ませていた。だって、父が『ツアーコンダクターの方の話を聞くと、理解が深まる。聞いていないフリをして聞くのがポイントや』なんて、大真面目な顔で言うから。そうして、修学旅行生たちの後ろで、ツアーコンダクターさんの声に耳を傾けた。父とふたりの秘密みたいで、ウキウキした。 「はあん。義満なあ」  夢香ちゃんは、さぞ関心がなさそうにあさっての方向を向いて見せる。 「まだまだあるで。上賀茂神社や。ここは京都最古の神社のひとつなんよ」 「へえ」 「へえ……て。夢香ちゃんは、神社仏閣には興味ないか」 「難しいのは好かんだけやん」
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