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倦んだ日々
3年前。
水鳥川 航は16歳だった。
中堅進学校の2年生。
そこそこ勉強して、中の上くらいの成績を保っている。
将来は何になるか。
友人の浅川 浩太と良く話した。
高校2年生の最初の席替えで、たまたま後ろの席にいた浩太は、部活の話をした。
「なあ。
俺さあ、美術部いいかなって思うんだけどさ。
一緒に入らん?」
航の顔に美術と書いてあったのか、決めつけるように聞いてきたのだ。
正直、部活には入らず学校が終わったらすぐ帰りたかった。
だが誘われてみると、目的もなく家に帰ってゲームしたりして遊んでいても時間の無駄かもしれない。
受験勉強が一段落して、将来への不安に向き合い始めたときだった。
浩太の一言が人生の転機になるなどとは思いもしなかったが。
「じゃあ、見学に行こう」
放課後、美術室へ行ってみた。
広い教室に、白い作業用の机が並べられている。
椅子は木製の箱椅子なので、普通教室とは大分違う。
絵を差し込める乾燥棚がいくつかあって、たくさん入っていた。
後ろに白い彫刻がびっしりと並べられ、その上に神様が描いたのかと思うほど上手な絵が所狭しと貼り付けられていて目を惹いた。
「高校の美術って、レベル高くね?」
航は絵が得意ではないが、興味はあった。
上手な絵を見て、心にザワつきを感じ始めていた。
「なあ。
居心地良くないか」
「同感だね。
学校とは思えない雰囲気がある」
「じゃ、顧問の先生に話してみよう」
そのまま準備室に向かう。
入口のドアが開いていて、流し台が見えていた。
お湯を沸かす電気ポットとコンロが一つ。
壁には色とりどりのシミがついている。
油絵の具の匂いが強くなってきた。
「こんにちは。
すいません。
入部希望なんですけど」
覗き込むと、不在だった。
中に入ると描きかけの絵が、イーゼルに架かっていた。
「ううん。
うまいというか、不思議な絵だな」
浩太が言うと、意味深く聞こえる。
良く笑い、ふざけ話が好きだが大人びた雰囲気を持っている。
顔立ちが整っているせいなのか、言葉に深みと威圧感がこもるときがあった。
「しっかり者」とも違う何か。
航に目をつけたのは、きっと大人しい少年だからだろう。
2年生でも同じクラスになった。
美術部の活動は緩やかで、のんびりと自分のペースで描いたり作ったりする。
顧問の相馬先生は、ときどきやって来て絵を指導してくれる。
半分遊んでいるような部活だった。
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