7.武田信繁

1/1
前へ
/7ページ
次へ

7.武田信繁

序盤で越後軍を燃えるように圧倒し大きく戦局を優位に迎えた武田軍。まさに、武田信玄の軍旗に記される〈風林火山〉 疾はやきこと風の如く、 徐しずかなること林の如く、 侵略すること火の如く、 動かざること山の如し。 武田軍は圧倒的火力を出し前線を押し上げた。 -武田本陣- 信玄「なかなか押し込んでいるな!勘助。」 勘助「えぇ、思いの外、兵達が圧倒しております。長期戦での作戦なので、あまり出過ぎないよう伝えたのですが。あの流れは私達でも止められませんね」 信玄「そうだな!このまま突破する作戦に変えてしまうか!ハーッハッハッ!」 状況に少し頭を抱える勘助と活気な信玄であった。 そんな中、ある男が本陣に現れ、信玄の下まで来た。 「兄上!ただ今、参りました!」 大胆に跪き、告げるこの男は信玄の弟、武田信繁(たけだのぶしげ)である。 歳は4歳離れているが、鋭い眼に体格、容姿や声、放つ空気感までも信玄に似ている。 幼い頃から兄を慕い続け、弟として、家臣として支え続け、信玄だけではなく、他家臣も皆、絶大な信頼を置く武将である。  また、武田軍最強戦力の騎馬軍の長を担う甲斐の副将軍である。 信玄「おぉー、信繁、騎馬隊の準備はどうだ?」 信繁「兄上、完の璧です!まもなく全隊配置に着きます」 信玄「ご苦労だ!ま、でもお前の出番はもっと後であろうな!ハッハーッ」 信繁「そうであるかもですね!ですが敵軍の脅威はあの長尾景虎、侮れません、ましてや今戦は景虎を怒らせている分、前回よりも危険がございますので。」 勘助「さすが。信繁殿!! 御館様っですので気を抜かずです。」 信玄「ぇっ俺、気ぃ抜いてないもん」 勘助「真田殿から聞いた噂話しでありますが、長尾景虎は、戦いの神、勝利の神、自らが毘沙門天(びしゃもんてん)の化身であると。と話しているようで。今の越後はその力をもって治めたと聞いております。」 信玄「毘沙門天…フッそんな話、まーでもこの信玄を相手にするのであれば、神の力でも借りないとな!ハッハッハーッ」 信繁「確かにそうですなっ!ハーッハッハ」 勘助「・・・」 陽気な2人を前に、顔が引き攣り始める勘助であったが、信繁は勘助の肩に手を当て冷静に声をかけた。 信繁「山本殿、、そう心配は入りませぬ、某がすぐに前衛まで参りますゆえ、反撃にも備えるよう要所に指示致します」 勘助「さすが信繁殿、お頼みします。」 信繁「それでは勘助殿、御館様、行って参ります!」 そう言って信繁は本陣から前衛に指揮を取りに向かい、本陣の勘助達は戦況を見守る形となった。   だが、事は信繁が前衛に到着する前に起きるのであった。。。 しばらくして前線までまもなくの距離まで来た信繁は、なにか異変に気付く。 信繁「ん⁈なんだ、この感じは、前の方が少し騒がしく…味方の声か?…ま、まさか!」 味方の声にしてはいつもとは違い、嫌な気を感じた信繁は、前線が見える場所まで慌てて馬を走らせた。  恐る恐る見渡すとそこには、大部分が越後の軍に押し込まれ、崩壊し崩れている武田軍の前線の姿であった。 恐れていた事がまさに起きてしまったのだ。 信繁「なんだと、あれ程押し上げていた前線をこの短時間で…まずい、急がねば取り返しがつかない事に!… 異常事態の戦況に信繁は急いで馬を走らせた。   そして武田本陣もこの時、同時に前線の崩壊に気付き、全体の前線、要所に援軍の指示を出した。 ようやく前線の自軍の陣に到着した信繁 赤く統一された馬鎧を着せた馬達が並ぶ。 そして騎馬兵が慌てて信繁を迎した 騎馬兵「信繁様!戻られましたか!」 信繁「あぁ!昌秀(まさひで)はどこだ!」 騎馬兵「部隊の半分を連れて最前線まで出陣致しました!異変に気付きいち早く対応に向かわれましたので、出陣から大分時間が経っております!」 信繁「承知した!我らも残りの部隊で突撃するぞ!出陣だ!!」 昌秀が対応してもあの崩壊ぶり、これは尋常ではない、このままでは昌秀も危ないぞ…頼む耐えてくれ…… -川中島国境最前線- 序盤の戦況が覆り、押し込んだ前線も武田の兵達の死体を残し、今では要所にしていた陣も越後の軍に追い上げられ大打撃を喰らった戦況であった。  戦況にいち早く異変に気付いた昌秀率いる騎馬隊が、なんとか越後軍の進軍を対応していた。  この騎馬隊を指揮しているのは工藤昌秀(くどうまさひで)。信繁と同世代であり互いの信頼も厚く、前年の川中島の戦いでも大いに武功を上げ、信繁と同じく騎馬軍を担うようになった信玄の重臣である。 荒れ崩れた前線の中、昌秀は兵達に叫ぶ 昌秀「耐えろ!!必ず援軍が来る!それまで耐えるんだ!!」 勢いを増し押し寄せる越後軍に騎馬隊の火力を出しなんとか抵抗する武田軍。 昌秀「おかしいぞ、きっとなにかが起こったに違いない…大きいなにかだ…相手の士気が猛烈に上がっているのを感じる…  刀を振るいながらも冷静に辺りを一度見渡す昌秀。すると異様なほど甲斐の方へ押し込み進み続ける箇所を見つけた。 そして昌秀はそこで掲げている旗を見て覆った戦局の原因に確信を迫った。 昌秀「中央が異様にやられているぞ…まて、あの高く掲げた旗は、毘の旗、毘沙門天……まさか…あり得ない…だが恐らくあれが元凶だ…あの部隊を食い止めなくては… 昌秀「後衛部隊は俺に続け!中央の戦場まで行くぞ!」 昌秀は、各箇所の後衛部隊を引き連れながら中央へ向かい、その部隊と突撃する作戦に出た。 そして進軍していると自ずと確信した。 尋常ではない敵の士気が、溢れるほど湧いて出ているのが肌で感じるほどであった。 昌秀「間違いない…毘の旗…越後の大将、長尾景虎だ… 「皆、よく聞け!この先に敵国の大将、長尾景虎がいる!あの軍旗を見ろ!前線の状況はよくないが、これは最高の機会だ!討ち取れば戦いも終わり、最高の武功を手に入れられる!勝利の為に我々でこの前線を打ち砕くぞ!!」 冷や汗が止まらない昌秀であったが、またとない機会と捉え、率いた部隊で突撃した。 だが、元凶を捕え突撃をした昌秀部隊であったが、毘の旗を大きく掲げた越後の部隊まであと一歩のところで、遮られてしまうのであった。  増援してきた昌秀部隊に対して越後軍は、待っていたかのように騎馬隊を当ててきたのである。  越後軍の完璧な対処に突撃した部隊は勢いを殺され、昌秀率いた部隊はそのまま前線にただ飲み込まれるような形となってしまった。 昌秀「くそ!なんなんだっこの敵は…また部隊がやられ過ぎている…これでは時間稼ぎさえも出来ない…なんとか一度後ろに後退するしか… 昌秀は立て直す為に後退を試みたが、やはり猛烈に攻めて来る越後の軍に隙は無く、ただ抵抗し続けるだけとなった。  勢いが止まらない越後軍を相手に昌秀が率いた部隊は次々に倒れ、ついに昌秀の喉元、側近の者まで血しぶきをあげていった。  絶体絶命の状況で昌秀は死を覚悟した。 昌秀「もはやこれまで…届くか分からぬが刺し違えてあの陣の将を……必ずいるはずだ…長尾景虎… そして、昌秀は決死の覚悟を決め、残った部隊に特攻の合図を出そうとした。 とその時であった、後方からなにやら騒がしく、なにかが地響きを鳴らし向かってくる音が。 振り返るとそれは、夕日になりかけた太陽が赤く辺り一面を照らし、 炎のように輝きを放つ大軍の姿であった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加