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「そんな……嘘でしょっ……!」
極寒の屋外から室内を覗き見ていた宗岡咲子(むねおかさくこ)は青ざめ、夫の宗岡稔(むねおかみのる)が、自分以外の女性と交わるまさにその瞬間を見つめていた。
咲子の視線の先には、稔のほかに複数の男女の姿があった。開放的なテラスに、一点の汚れもない防火ガラス窓がはめ込まれていて、中の様子がよく見渡せるようになっている。普通ならカーテンやブラインドでも添えつけてあるのだが、ここにはそういった類のものは皆無。惜しげもなく中の様子を露出できる、そんな空間が広がっていた。
金持ちの別荘として相応しい作りのこの場所で、複数の男女が己の肉体を曝け出し、交わり合っていた。分厚い防火ガラス窓の向こうで繰り広げられる、夫も混じった状態の酒池肉林。先ほどから震えが止まらないのは、決してこの場が寒いという理由だけではない。
思わずあとずさりした際、咲子は別荘の隅に置いてあるワイン樽に当たってしまい、積み上げられていた空の木樽を派手に転がしてしまった。それが倒壊する騒音がしたため、ガラス窓の向こうの夫がこちらを振り向いた。
「誰だっ」
――稔君に見つかってしまった……!
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