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俺は急いで丁寧に猫ちゃん達を身体から降ろすと、体の姿勢を変えた。
「な、なんだとっ!四つん這いっ!猫を身体に乗せたまま、四つん這いでトイレまで移動しようというのか――っ!!」
「どうだ!これならば上に猫ちゃんを乗せていようとも安全に移動する事が出来るっ!」
俺が猫ちゃんたちに気を使ってゆっくりと移動を開始するや否や、心地良い座布団を求めていた猫ちゃん達が一斉に群がってきた。
背中やふくらはぎを通じて猫ちゃんたちの肉球が服を貫いてプニってくる。本当であればこの感触に酔いしれていたいのだが、すでに俺の膀胱はパンク寸前だ。
「だがあんな数の猫ちゃんを乗せたままでトイレに入る訳にはいかないぞ?どうする気だ?」
とうとう、公衆トイレの前まで来た。とは言っても一基だけのトイレなのだが。
俺はトイレのドアをゆっくり気を使いながら開けると、目的のモノへと手を伸ばし、それを思いきり捻った。
ジャ――!!
「驚かせてごめんよ!でも俺も洪水寸前なんだー!」
「なにっ!?水っ!?用を足す前に水を流す事で猫ちゃんを退かせただとっ!?猫は本能的に濡れるのを嫌う!大きな音も苦手!なんという作戦なんだ――!」
そして俺は、ゆっくり素早く、慎重にトイレのドアを閉めた。
にゃー にゃー
にゃー
「なっ!?あれは出待ちっ!!トイレに入った飼い主を待ち受ける“猫の出待ち”だぁ――!お前等――!英雄が!トイレに入った英雄が現れたぞぉ――!」
ドアの外では猫たちが俺の帰りを待っている。そしてトイレ問題を解決した俺の方法を参考に、これからは排泄者が続々と訪れる事だろう。
勝った――
何にという訳ではないが、そんな満足感を味わいながら便器に腰を下ろしたその時。
トイレの床に何かが落ちている事に気が付いた。
それは白く、猫の毛よりもしなやかで長い『猫のヒゲ』だった。
「お、おヒゲみっけ!ラッキー」
猫のヒゲは猫好きの間では幸運のアイテムとして重宝されている。実際に猫を飼っている家ではヒゲ専用の収納箱が必ずあるといっても過言ではない。
俺がそれを拾い上げると、どこからともなく音声が流れた。
ピンポーン!等活地獄、クリアー!
クリアー?この地獄を攻略したという事か?ほっと安堵のため息が漏れる。
そして嫌な予感が…
ばこん!
「またこれかあぁぁぁぁ――ちょ、トイレぇぇぇぇぇぇ」
今度はトイレの床が開き、俺はまた暗闇の中へと落ちていった――
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