黒縄地獄

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何匹もの愛らしい猫たちが通り過ぎる中、俺の足元にとどまってくれたのは――黒毛だがうっすらと黒いトラ模様が入り、しかも黒毛の内側が白くなっている、ブラックスモークタビーという非常に珍しい柄の、スラリとしたボディの子だった。 その黒く輝く毛並みはどのような手触りなのだろう――撫でたい。 俺はその猫の美しさに魅入られてしまったが、意中のその子は俺の前でちょこんとお座りしてネズミが動き出すのを今か今かと待ち構えていた。 待たせる訳にはいかない。 だらりと下げたネズミをぴょんと跳ね上げる。 猫はスッと低く伏せ、ウズウズとその愛らしいお尻を左右にフリフリしはじめた。そして雷光の如く飛びかかり、オモチャのネズミを両手で捕まえる。惚れ惚れする敏捷性と運動神経だ。 俺はしばしネズミをガブガブさせ、手を離した隙を見てネズミを大きく動かした。 「それっ!」 逃げるネズミ。それを追う猫。それを操る俺――これぞ天国と言わずして何と言う。俺はそう思いながら猫と戯れた。 「あはは、あはは、上手だねぇー」 心の底からの猫撫で声で猫と戯れる。猫は俺の股下を狩りの拠点『メインキャンプ』と定めたのか、足の間に入り込み、必ずそこから獲物へと飛びかかっている。 猫は自分の足元でゴロゴロ転がりながらずっとネズミをガブガブケリケリしていたのだが、興奮したままで俺の足にしがみついた。 「あ……」 そして猫はそのまま俺の足を後ろ足でケリケリし始めた。 「あだだだだだだだ――!」 激痛に思わず悲鳴を上げるが猫は一向に止める様子がない。 「そ、そうだぜ新入り…!」 クドいツッコみの男の声がした。改めて周囲を見回すと、足脛や踵、足の指をボロボロのズタボロにされ、もはや這って動く事しか出来なくなった罪人たちが涙を流しながら、それでも嬉々として猫じゃらしを振っていた。 「これが地獄の第二階層『黒縄地獄』だ!」
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