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衆合地獄
みぃみぃと愛らしい声たちで目が覚めた。
目を開け、身体の何処にも猫がくっついていない事を確認してゆっくりと起き上がりながら見回すと、そこはどこかの室内の様であり、そこには何匹もの手のひらに乗せられるサイズのこねこ達がわちゃわちゃと戯れていた。
「何て愛らしい…ここが天国か」
「地獄だよ。いい加減目を覚ましな」
肩や頭の上にこねこを乗せた罪人が俺に声を掛けてきた。
「しかし、ここは今までの天国とは違うぞ」
「だから地獄だっつってんだろ」
「猫たちの雰囲気が違うんだが」
「あぁ。ここは離乳出来立ての子ねこ達が集まる食事場だ」
「やっぱり天国じゃないか」
「そう言っていられるのも今のうちだ。とにかく手伝え新入り。ここでの俺達の仕事は子ねこ達への餌やりだ」
ここのやり方を知っている、という事だろうか。付いて来い、と顎で示す男の後をついていく。
「腹を空かせた子が俺達に登ってくる。俺達はそれに耐えながらひたすら餌を出す――それだけだ」
「分かった」
こねこ達がわちゃわちゃと戯れる中を足元に注意しながら廊下を歩く。
「パウチしか食わない子もいりゃあカリカリが好きな子もいる。エサ皿で食べる猫もいれば人の手からしか食べない猫もいる」
「こねこに手からごはんなんてご褒美じゃないか」
「指を噛まれるのは覚悟しておけよ。それにこねこの爪は細くて鋭い。今までの猫たちとは爪の痛さが段違いだ。ジーンズであろうと貫いて血を流させる。それでもとにかく乗り切るんだ。全員に食わせるんだ。そうでなければ何度もやり直すハメになる」
「任せておけ。相手がこねこなら、なんだって耐えてみせる」
「威勢がいいな。頼んだぜ、相棒」
「ところでアンタ――どうしてそんなに詳しいんだ?」
「やってみればわかる。とにかく今は全員に食べさせる事に集中してくれ」
「…わかった」
男に案内されるまま、俺は凄まじい量のこねこ用カリカリとこねこ用ウェットフードパウチ、こねこ用のねこ缶が置かれてる台所に辿り着いた。台所には前回使ったのであろうごはん皿が無造作に積み上げられていた。
「まずは皿を洗う。ここからが始まりだ」
「あぁ」
二人して無言で皿を洗う。洗い終わったらキチンと拭いて所定の位置にセット。これで下準備は完了のようだ。
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