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手には箸と皿。コンロの上には肉。そして焼き上がったばかりの肉をモシャモシャと嚙みながら、こちらに顔を向ける老婆がいた。
「ん?肉ならやらんぞ」
「紛らわしいな!こんな所で何してんだよ!」
老婆の隣にいるのは爺さんだ。夫なのか。背を向けたままで動かない。
「河原と言ったらBBQに決まっとるじゃろ」
「ババアの割に行動が若ぇな」
「幾つになっても心は乙女よ、って…お前さん、人間か?」
「あぁ。もう死んでるんだとは思うが、一応人間だ」
「そりゃ死んでて当たり前じゃ。ここは地獄じゃからの。しかしスマンかったな。ほれ肉食うか?」
自分の箸をベロリと舐め回すとコンロから丁度良い焼け具合の肉を1枚つまんで向けてくる婆。しかし“地獄”といったか…?
「勧める前に箸を舐めるな汚ぇな。ってかここは地獄って言ったよな?って事はその肉ってまさか人のに…」
「オーストラリア産牛カルビじゃ」
「ホントに地獄なんだよな?」
「文句言うならやらんぞ?」
「いらねぇよ」
「喰いたければ自分の肉は買ってこい」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「肉を喰わないなら何しに来たんじゃ!」
「それを俺が聞きたいんだよ!」
「はっ!…もしかして仕事の話か?あたしゃてっきり肉泥棒かと思うたわ」
「いい加減肉から離れようか?婆さん」
「あたしゃタダの婆さんじゃないよ。あたしの名前はゃ奪衣婆。死者の衣服を交換する役人じゃ」
「奪衣婆…やっぱり地獄なのか…」
「正確には地獄の手前じゃ。ディズニーランドで言ったら入場門前の広場じゃ」
「ディズニーみたいに楽しい所ならいいんだけどな」
「そしたアタシはチケットブースのキャストのおねえさんじゃ」
「もしかして憧れてんのか?年甲斐もなくディズニーのキャストに憧れてんのか?」
「ワシもあんな可愛い服を着てみたいのじゃ(ポッ」
「頬を染めるな。そしてディズニーのキャストは仕事場でBBQなんかしねぇ」
「ほれ、とにかくその服を脱ぎな」
「死者の衣を剥ぎ取るってのは本当だったのか…」
「いや、服に焼肉の匂い移ってるし申し訳ないなって」
「だったらお前等BBQすんなって話だよな?」
「ほらそこタレ飛んでるし。食べるならもっときれいに食べんさいよ」
「アンタが飛ばしたんだろうが!というか俺は食ってねぇ」
「河原でBBQして流されて死んだ奴が食わなかった肉がわんさか送られてくるんじゃから仕方なかろう!儂らだってみかんとか餅とか食いたいんじゃ!」
「気持ちは分かるけど餅は危ないから止めとけ?」
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